平昌五輪開会式への出席で問われる安倍外交 紆余曲折の末の「首相勇断」で成果は出るか?

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首相が24日午前に記者団に語った詳細は、(1)事情が許せば、平昌五輪開会式に出席したい、(2)同時に(文大統領と)首脳会談を行い、日韓の慰安婦合意について日本の立場をしっかり伝えたい、(3)北朝鮮の脅威に対応していくために、日米間のしっかりした連携と最大限まで高めた圧力を維持する必要性を伝えたい、というものだ。しかも、その内容は産経新聞の前日23日付の首相インタビューとほぼ同じでもある。しかし、その前日の22日午後の施政方針演説では平昌五輪や慰安婦合意にはまったく触れず、通り一遍のごく短い対韓外交方針の表明にとどめている。

首相は東欧歴訪中の1月15日、訪問先のブルガリアで行った同行記者団との内政懇談で「国会の最中なら1日も早い予算成立こそが最大の経済対策」と述べ、それを受けて菅義偉官房長官も「国会日程が最重要」と五輪開会式出席に慎重姿勢を示した。ただ、国会日程をみると、開会式が行われる2月9日(金曜日)には首相出席が必要な衆院予算委の基本的質疑とかち合う可能性は低い。しかも、政府与党はかねて「国会審議より首相の外交日程を優先すべきだ」と主張し、昨年の衆院選後の特別国会もトランプ米大統領訪日を含む首相の外交日程を最優先して審議日程を組んでいた。

「欠席」から「出席」へ揺れた決断

今回、野党側から開会式出席のための首相訪韓への反対意見がなかったことも考え合わせれば、「国会日程を掲げての態度留保は、出席を断るための布石だった」(民進党幹部)との見方も否定できない。自民党内にも「首相の勇断というが、どちらにするか迷いに迷った挙句、渋々決めたのでは」(自民長老)と指摘する向きもある。

首相が23日の産経新聞のインタビューで開会式出席の決意を語ったのは党内保守派への配慮とみられているが、保守派議員からは「単独インタビューで訪韓が決定事項のように報じられるのは異常だ」との反発も出ている。文大統領発言から首相の訪韓決断表明までの2週間の関係者の動きや発言を検証すると、「方針が初めから決まっていたのではなく、紆余曲折の末に首相の勇断として演出しただけ」(首相経験者)との見方が出るのも当然だ。

6年目に入った首相の政権運営について、内外ともいちばん評価が高いのは首脳外交だ。トランプ米大統領と築いた親密な関係も含め、国際社会でも「安倍外交」への評価は定着している。そうした「世界の安倍」という立場からみれば、今回の訪韓問題では初めから韓国大統領の動きなどとは一線を画して「平和の祭典だから開会式に出席する」という対応も可能だった。そうすれば「子供じみた韓国外交とは違う『大人の外交』として国際社会にアピールすることで、文大統領への圧力も倍加した」(外務省OB)との声も出ている。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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