江東区民の悲願、「豊洲-住吉間地下鉄」の成否 区の報告書にメトロへのメッセージが?

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江東区は、東京8号線豊洲―住吉間の運行主体に東京メトロを想定している(筆者撮影)

平川担当課長によると、東京8号線豊洲―住吉間については「都営地下鉄による運行は考えていない。東京メトロが運行すると考えている」という。問題は、どのようにしてこの路線を造るかだ。

東京メトロは民営化時に、自ら新線を造らないとの方針を打ち出しているが、改めて同社に聞くと、「弊社としては、新線建設に対する協力を求められた場合、都市鉄道ネットワークの一部を構成する事業者として、『当社の経営に悪影響を及ぼさない範囲内にて行う』という方針で対応していきたいと考えています。地下鉄8号線に関しても同様の方針で対応する考えです」との答えが返ってきた。

建設は実現するか?

となると、重い負担となる建設費などの問題をクリアすれば可能なのではないか。

この計画は、「事業手法・事業主体をはっきりと決めないと進まない」と平川担当課長は言う。江東区の報告書では、路線の整備については「整備主体と営業主体を分ける上下分離方式が想定される」と記しており、収支などの予測条件では、整備主体を第三セクター、営業主体を東京メトロとしている。平川担当課長によると、これは東京メトロに投げかけたメッセージなのだという。だが、「フィードバックはまだない」という。

報告書によると、建設費は1420億円、車両費は140億円で予測している。建設にあたっては「地下高速鉄道整備事業費補助」か「都市鉄道利便増進事業費補助」という補助制度の活用が考えられるとしており、地下鉄8号線延伸では前者の適用が適当であるとしている。この制度を活用した場合、整備主体の累積資金収支は30年以内に黒字転換する見込みだ。

地下鉄8号線延伸は、江東区と東京メトロだけで解決するものではない。東京都では、これ以外にも2016年の交通政策審議会の答申を受け、「都民ファーストでつくる『新しい東京』」の中では「東京8号線の延伸」を含む6路線の新線の計画を記している。都によると、「その中での優先順位については特にない」という。となると、計画のある各地域が声を上げて早期建設を競うということになる。

だが、2020年の東京オリンピックまで、東京の土木・建設事業者は多くの仕事を抱えている。オリンピックが終わり、土木・建設業者の手が空くような状況にならないかぎり、着工は難しい。それまでに国や東京都、江東区、東京メトロなどがどのように合意形成を行っていくかが、この計画の成否に結び付いていくだろう。

小林 拓矢 フリーライター

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こばやし たくや / Takuya Kobayashi

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学卒。在学時は鉄道研究会に在籍。鉄道・時事その他について執筆。著書は『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。また ニッポン鉄道旅行研究会『週末鉄道旅行』(宝島社新書)に執筆参加。

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