世田谷一家殺人事件、被害者の姉の「その後」 隣に住んでいた姉一家の人生も激変した

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2013年『悲しみを生きる力に』(岩波ジュニア新書)を出版。事件のことだけでなく、入江さんをはじめ、遺族がどう悲しみと向き合い、生き直してきたかが克明に記されている

「出会ってまだ2年なのに、杏ちゃんは本音で話せる相談相手です。ずっと聞き役だった夫が、“俺の出番はないな”と肩の荷を下ろすほど、家族以上に家族のような存在ですね。杏ちゃんとはお酒も飲むし、温泉に行ったこともあります。楽しければ、大いに笑う姿に、犯罪被害者である前に、ひとりの人間として、あるがままに生きていいと、気づけたように思います」

2013年、『悲しみを生きる力に』(岩波ジュニア新書)を出版。以来、著書のタイトルをテーマに、講演活動を行う。

全国から講演依頼が途切れないのは、犯罪被害者遺族として同じ立場の人に寄り添うだけでなく、社会全体に支援を呼びかけているからだろう。

「犯罪被害者遺族は、世間やマスコミが求める“遺族らしい姿”に縛られ、苦しくなってしまいがちです。ただでさえつらいのだから、悲しいときは泣いていい、うれしいときは遠慮なく笑っていいと思うんです。そうやって、遺族が素直に気持ちを発信できる社会にしたいし、それを受け入れられる社会になればと、活動を続けています」

講演などで人々と直接向き合うだけでなく、「こう見えても、被害者遺族の中でSNSを活用してるほうなんです」と、ツイッターやFacebookでも、メッセージを発信。一般の人にもネットワークを広げて、社会全体に思いを届ける。

ありふれた毎日こそが、かけがえない

入江さんの朝は、ピーターラビットのコップに新しい水を入れ、写真立てに供えることから始まる。そこには7人の笑顔が並ぶ。

泰子さん一家4人、父親、82歳で他界した母親、そして、2010年、60歳という若さで亡くなった、夫・博行さんの写真だ。

「夫が亡くなったのは事件から丸10年が過ぎたころです。“ようやく、いつもの生活に戻れたね”と話していた矢先に、突然、大動脈解離で倒れました。手術室に入るときの“行ってくるよ”が、最後の言葉だったので、今も“ただいま”と帰ってくるような気がしています」

次ページずっと支えてくれた夫の死は…
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