「米朝戦争」の可能性は、なくなっていない これから考えられる2つのシナリオ

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「トランプ大統領が何か発言した時、それをどういう意味で言っているのか、その後どういう行動に出るつもりなのか、目星をつけなければならない」とは、北朝鮮外務省高官が、「ニューヨーカー」誌のエバン・オスノス記者に述べた言葉である。「これが実に難しい」。

トランプ大統領による戦争の脅しは、中国と北朝鮮に譲歩させようとする、計算ずく駆け引きなのか。北朝鮮はそう思案にくれている。「トランプ大統領は理不尽なだけかもしれない。または、並外れて賢いのかもしれない。どちらとも言えない」と、ある外務省高官はオスノス記者に語っている。

対話を開始しようという、国務省から発せられる数々の試みに対し、なぜいまだに北朝鮮が応じようとしないかは、想像に難くない。北朝鮮でも米メディアをすべてチェックすることができ、国務省にはトランプ政権に及ぼす力がないということを知っているのである。

さすがに先制攻撃や予防攻撃はあり得ない

トランプ大統領自身からの直接の引き金がないかぎり、正恩氏らは、欲しいものが手に入るのを狙って、挑発の段階をさらに引き上げる危険性がある。とはいえ、北朝鮮は明らかに、トランプ大統領にとっての危険ラインがどこにあるのかを測りかねている。

北朝鮮はその長い歴史の中で、重大な軍事衝突を引き起こすことなく、かなり長い間挑発を続けることができることを知っている。広範囲な戦争、という脅威が、米国と韓国を抑えるのに十分であると。しかし、今は違う。これを、トランプ大統領の計算された「狂人的」駆け引きのおかげ、と言っていいかわからないが、さすがの北朝鮮も、米国がどう考えているのか、わからないのである。

今後、2、3カ月状況が変わらなければ、北朝鮮は小規模実験を繰り返し、正恩氏は以前と同じような行動に出ることだろう。米国を「わからせる」には、武力しかないと決め、さらに規模の大きい新型ICBMの実験に乗り出すことも考えられる。

「トランプ大統領は、戦争なんて望んでいない」と、ある国務省高官は話す。「戦争」が、先制攻撃や予防策としての北朝鮮攻撃を意味するのであれば、筆者もこの読みは正しいと思う。近ごろ盛んに論議されている、いわゆる「ピンポイント先制攻撃」という筋書きさえ、あり得そうではない。

これについては、ジェームズ・マティス国防長官と、ジョセフ・ダンフォード将軍兼統合参謀本部議長が、トランプ大統領にこうハッキリ伝えているからだ。こうした攻撃は、広範囲の軍事衝突を引き起こす可能性があり、全面的な戦争に発展するかもしれないと。

非武装地帯における小規模攻撃が、米国の攻撃を誘発することはないだろう、と米国政府高官らは確信している。しかし、大気圏内核実験といったレベルの挑発行為が起こった場合、すべては白紙に戻る。「そういうことになったら」米国情報機関に身を置く、ベテランの北朝鮮専門家は筆者にこう漏らした。「東京には絶対に滞在しない」。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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