箱根駅伝「薄底vs.厚底」靴の知られざる闘い ナイキ驚異のイノベーションが歴史を変える

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日本では、「ブレイキング2」はあまり話題になりませんでしたが、やはり今回は凄い。バスケットシューズにエアが入ったときと同レベルのイノベーションです。ナイキとしては、箱根駅伝が日本で一番PRになる場だと考えていると思いますし、今回を機に日本でもフィーチャーされるかもしれません。

――ヴェイパーフライ4%という名前は、「4%速くなる」という意味が込められているそうですね。

大迫選手は、この靴で4%速くなるかもしれないけれど、風の影響で6%遅くなることもある、と語っていました。そうですよね、道具が走るわけではありませんから。イノベーションが凄くても、それをモノにして、あの靴で42.195kmを走るまでに、彼は凄まじいトレーニングをしてきたと思います。

大迫選手は最後のトラックに入っても、かかとがつかないフォアフットで走りきった(写真:EKIDEN NEWS)

フルマラソンの終盤では、たいていの選手は疲れて腰が落ち、かかとから着地してぺたぺた走るようになるのですが、福岡国際マラソンでの大迫選手の写真をよく見ると、ラスト400mという場面でも、ヴェイパーフライ4%の特徴を活かしてかかとを浮かせたまま走り、まだ2位を狙っていました。

福岡国際マラソンでヴェイパーフライ4%を履いた選手はたくさんいましたが、そのような走りをしていたのは、大迫選手だけです。それほどまでに靴に左右されないフォームで走り続ける体を仕上げる努力をしてきたということです。

アスリートにとって、走り方を変えるというのは重大な決断です。それに気づいたとき、大迫選手のとてつもない努力と苦労を知りました。

「ランナーファースト」がナイキ精神

西本 武司(にしもと・たけし)/WEBメディア「EKIDEN NEWS」主宰。吉本興業、ほぼ日刊イトイ新聞を経て、コミュニティーFM「渋谷のラジオ」制作部長。"公園橋博士"の名前で駅伝をどこよりも細かく追っかけるWEBメディア「EKIDEN NEWS」を主宰するほか、「TOKYO FREE 10」「オトナのタイムトライアル」など新しいレースを企画する。ランニングを始めてはや9年。走ること、観ることと多角的にマラソンレースを楽しむ。2017年ニューヨークシティマラソンにて(写真:EKIDEN NEWS)

ナイキには、やっぱりこういった努力をするアスリートの声を一番大切にしてきたところがあると思います。「SHOE DOG(シュードッグ)」は、そのあたりの泥臭い話が多くてわくわく読みました。

ニューバランスがスポンサードしているニューヨークシティマラソンでは、受付や買い物などの列を、すべて5分以内でさばくという目標が掲げられていました。これから走ろうとするランナーを待たせちゃいけない、ランナーファーストなら行列を作ってはいけない、と。そのために導線も考え抜いたらしいのですが、責任者の方は「僕、元ナイキだったんですよ」と。

ナイキ卒業生ってみんな凄いんですよ。世界中のスポーツメーカーに元ナイキの人が散らばっていますが、みなさんランナーファーストの精神を受け継いでいるように感じます。そんなナイキだから、ヴェイパーフライ4%が生まれた。

今回の箱根駅伝は、靴に注目してみるとかなり楽しめるかもしれません。区間賞をとったあの選手はどの靴を履いているのか? ユニフォームはこのメーカーだけど、靴はどのメーカーのどの靴なのか? ソールのチョイスで選手の走りの特徴もわかりますし、その選手がこれからどういう風に成長していきたいのかも想像できる。箱根では、とんでもない人が4%速くなっているかもしれません。

泉美 木蘭 作家・ライター

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いずみ もくれん / Mokuren Izumi

1977年三重県生まれ。24歳でイベント企画会社を起業し、即刻倒産。借金返済のために働く日々をつづったWebサイトが話題を呼び、作家デビュー。以降、週刊誌やWeb媒体等で執筆。TOKYO MX「モーニングクロス」「激論!サンデーCROSS」などテレビ番組でレギュラーコメンテーターとして出演。著書に『オンナ部』(バジリコ)、『エム女の手帖』(幻冬舎)、『会社ごっこ』(太田出版)等。趣味は合気道とラテンDJ。

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