「引退アスリート」の人材活用も日本の課題だ 現役時代からの「デュアル」キャリアに注目

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JSCの調べによれば、デュアルキャリア期間は競技によって差はあるが平均約17年だそう。プログラムでは、その入り口にあたるタレント期に競技の目標とセカンドキャリアで何をしたいか、どんな人生を送りたいかを明確にし、それを実行するためのプランを作成して修正を重ねながらプログラムを継続していくという。

たとえば、中学生の女子選手が競技人生の目標に五輪のメダル獲得を掲げ、引退後はアスリートの健康を支える医師になりたいと希望したとする。

それには高い競技力と大学の医学部に入るための高い学力が必要になる。
エリート選手ともなれば、練習や試合遠征に時間を取られ、競技と学業の両立は容易ではない。また、それを自助努力で賄うには限界があるため、国家レベルで環境、仕組み、制度を整え、選手のキャリア形成を促進する必要があるという。これがスポーツ基本計画のデュアルキャリア施策が目指す理想の姿である。

室伏氏や太田氏に続く人材は増えるのか

決して多くないが、現在もデュアルキャリアを経て充実したセカンドキャリアを歩む元アスリートはいる。たとえば、室伏広治氏(ハンマー投・アテネ五輪金メダル)だ。2016年6月の引退前から中京大学准教授や東京五輪・パラリピンピック競技大会組織委員会のスポーツディレクターを務める。彼は東京医科歯科大学教授としても、長年にわたる自身の競技経験を研究・指導の場に生かしている。

もう1人が、2016年8月に競技生活を退いた太田雄貴氏(フェンシング・北京五輪銀メダル(個人)、ロンドン五輪銀メダル(団体))も引退直後に、日本フェンシング協会会長の要職に当時31歳の若さで就任した。彼も引退前から国際フェンシング連盟で選手委員を務めるなど、フェンシングの競技普及に貢献するセカンドキャリアを描いてきたと言われる。

JSCの野口順子氏は、「五輪のメダリストでなくても、それぞれの最高到達点を設け、自己実現や社会貢献をしているアスリートはいる」と言う。その一例として、五輪の入賞選手やプロ選手で、競技と勉強を両立させ文武両道を貫いた末、国連のUNICEF(国連児童基金)で国際貢献活動をしたり、プロ選手でありながら公認会計士になり競技団体に貢献したりするケースもあると教えてくれた。

こうした事例をさらに増やしていくことは可能だろうか。現時点では個々の自助努力に負うところが大きく、再現性は低いと言わざるをえないのが現実だろう。

この点について野口氏は、「そういう意味では、タレント期から計画的に進めるデュアルキャリアのロールモデルは、まだ日本にいないと言えるかもしれません」と話す。

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