ホームレスになった年収1200万男性の悲劇

働き盛りを襲う「介護離職」の現実

百貨店を退職してから2カ月後、知人の紹介でスポーツ店に正社員として就職する。スキーのインストラクターの資格を活かしてツアー添乗員などの仕事をしていたが、不況で人員整理がはじまり自ら身を引いた。3番目と4番目の勤め先は、小さな会社で業績も不安定だった。2年近く仕事をしたものの、賃金の未払いが重なった。2008年に母が亡くなり(享年86歳)、最低限の葬式を出して貯金が底を突いた。

月5万5000円の家賃を2カ月滞納したところで家主に追い出され、公園で寝泊まりするようになり、翌年11月、支援団体に保護された。その後、3年ほど生活保護を受けて自立できたのは、社会的包摂サポートセンターの「よりそいホットライン」で団体職員として採用されてから。電話相談員として生活に困っている人の悩みを聞き、サポートする側として活動の場ができた。そこで、介護離職の経験が役に立った。

「全国から電話相談だけでも年間500件ほど受けていますが、親の介護で疲れ切っている人からの相談は年々増えています。ここに電話をかけてくる人のほとんどが、崖っぷちの状態。親子共倒れにならないためにも、行政の支援に頼るなど早めにSOSを出してほしい」(高野さん)

親を看取れたのはいいけれど、その後、自分は仕事がなくて生活ができない、気がついたときにはハローワークで職探しをしても仕事がみつからない――。こんな人が介護破産に陥ってしまう。

介護がはじまってから1年以内が要注意

ワーク&ケアバランス研究所の和氣美枝さん(45歳)は、不動産会社の正社員だったが、7年ほど前に認知症の母(77歳)を介護するために退職した。介護に関する知識がなく、情報をどう集めたらいいのかわからなかった。次第に生活のすべてが中途半端になり精神的に不安定になった。

「介護者の不幸は選択肢がわからなくなることなんです。介護がはじまると『辞めるしかない』と思い込んでしまいます。病気になったら真っ先に病院に行くように、介護になったら真っ先に『地域包括支援センター』に行ってほしい」(和氣さん)

特に、介護がはじまって1年以内に退職した人が、介護離職者全体の半数以上にのぼるという調査結果もある。“介護の初動”をうまく乗り切る、そのためには、会社の制度や介護保険の1割負担で使えるサービス、自治体が独自に行っている安価なサービスを知っておく必要がある。

「地域包括支援センター」とは、在宅の要介護者や家族にとっての相談窓口で、市区町村の中学校区に1カ所設けられている。そこでは、要介護認定の申請やどんなケアプランを受けられるのかといった情報を教えてくれる。

介護の期間は平均4年11カ月(約3割は4〜10年未満)というデータ(生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」速報版2015年9月79ページ)があるように長期戦は必至。排泄や入浴介助が必要になったら介護サービスを利用してプロにまかせる。お金の面も含めて、家族の負担を最小限に抑えておくことが、破綻しないための一歩なのだ。

仕事と介護の両立は可能か

介護で一番辛いのは、睡眠不足に陥ること。夜中に排泄の介助のために起こされてそれから寝付けない。生活のリズムが乱れ、体調も悪化する――。そんな負のスパイラルに陥り、心身ともに疲労困憊する。

都内に住むヨウコさん(仮名、49歳)は2年前、父(享年92歳)と母(享年83歳)を相次いで看取った。二人の世話に明け暮れて夜も満足に眠れない生活が続いたとき、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」という新しいサービスを使い始めた。

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