信号未完成「空港線」はぶっつけ本番で走った 工事完了と同時に、客を乗せた列車が通過

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さて空港駅から乗り込むと、その中にKAI総裁のエディ・スクモロ氏の姿があった。25日に電車が走ったことに安堵した様子であった。

試運転列車のパンタグラフ。日本製だ(筆者撮影)

信号なしの見切り発車について聞くと、「暫定開業時にはしっかり信号も供用開始するから安心してください」と胸を張った。その時期については「12月上旬に走れたらよいですね」という穏やかなものだった。

実は復路の終着駅手前で2両目のパンタグラフが損傷するというトラブルが発生していた。車両限界も測定せずに、いきなり新線区間を走行させれば、当然の結果ではあるのだが、問題視されることはなかった。

それよりも、列車には招待客だけでなく、たまたま駅にいた人や、情報を聞きつけてやってきた、現地の鉄道ファンの姿もあった。しっかり、“お客さん”まで乗せて走ってしまった試運転列車は、当初の目的を果たしてしまったのである。

日本では常識外でも世界では起きる

もちろんこれは建前の話であって、実際に営業を行うKAI、レイリンクにとってここからが正念場である。12月に入ってからは、信号や電気関係の試験、架線の調整、軌道検測、営業車両を用いた試運転が連日実施され、さらに複線化も完成させてしまい、暫定営業開始に備えている。

先述のパンタグラフは日本製である。その後の試運転でもさらに損傷するというトラブルに見舞われている。

このような“何でもあり”の世界で日系企業はしっかりと戦っているのである。この空港線開業の顚末を単なる笑い話に終始させてもらいたくはない。今後、我が国が本気で鉄道インフラのパッケージ輸出を行うのなら、このように日本の常識ではありえない状況に直面することは、必然的に起こりうるだろう。その1つの教訓として、今回の一件を心に刻んでおきたいと思う。

高木 聡 アジアン鉄道ライター

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たかぎ さとし / Satoshi Takagi

立教大学観光学部卒。JR線全線完乗後、活動の起点を東南アジアに移す。インドネシア在住。鉄道誌『鉄道ファン』での記事執筆、「ジャカルタの205系」「ジャカルタの東京地下鉄関連の車両」など。JABODETABEK COMMUTERS NEWS管理人。

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