デジタル化時代の顧客体験のつくり方 カギは、一人ひとりの顧客と向き合うこと

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ディスカッション
データ×顧客体験のPDCAで現場を進化させる

ディスカッションパートでは、デジタルマーケティングの現場で成果をあげている3氏が登壇し、実践事例等を紹介した。

最初のテーマは、「リーチ」勝負から「コミュニケーションの質」勝負。今の時代に成果を出し続けるには、個々の顧客の状況に寄り添った対応が必要であると3氏とも強調した。

中澤 伸也氏/IDOM デジタルコミュニケーションセクション セクションリーダー

中古車売買のガリバーを展開するIDOMの中澤伸也氏は、リーチした顧客と受注までどうコミュニケーションするかが重要になってきており、顧客の「検討度」と、自社と顧客の「関与度」を高めることがコミュニケーションの深さになると解説。その上で、「顧客と長時間つながれるチャットを作り、コミュニケーションのステージを一方的な情報提供から信頼関係が十分築かれる段階まで定量化する試みを行っている」と紹介した。

片岡 伸浩氏/ソニー損害保険 CXデザイン部 部長

ネットで自動車保険の契約ができるソニー損保の片岡伸浩氏は、例えば新規で加入した顧客にはネット自動車保険に対して「安かろう悪かろうではないか?」というネガティブな心理を解消して加入している方と、 解消しきれないまま加入している方がいることを踏まえ、「新規顧客をひとかたまりでとらえるのではなく、理解度によってコミュニケーションを変えないと翌年以降の継続率が変わってくる」と述べた。

毎月一回、一つずつ商品を届ける「定期便」サービスを行う通販大手、フェリシモの橋本和也氏も、新規の顧客獲得を一律に見てはいけないと指摘。「ほかの商材も見てもらえているかどうか、サービスの全容を理解してもらえているかなど、それぞれの状況によって申し込みの継続が違ってくる」と述べた。

3氏の話の共通点として、質を重視するために、顧客を「属性」ではなく、行動履歴などをもとに顧客の「状況」を捉えていることと宮坂氏が指摘。属性だけでは次の打ち手が見えにくい一方、顧客は状況ごとに要求する体験が異なるために、状況で顧客を理解することによって施策が見えてくるという。

宮坂 祐氏/モデレーター:ビービット エグゼクティブマネージャ

続いて宮坂氏が二つ目のテーマ、「ビッグデータ」×「個票データ」を提起。顧客一人ひとりの状況をとらえるためには、顧客データを個別・時系列に把握すべきであり、これはいわば、ビッグデータと対比するならば個票データと呼べると紹介した。ビッグデータは投資領域の判断など、組織が意思決定する際に効果を発揮するが、総花的で有効な打ち手につながらないことも多い。ビッグデータと個票データはどちらも大切なデータには違いないが、もっと個票データの価値に注目することも必要ではないかと訴えた。

橋本 和也氏/フェリシモ マーケティング コントロールセンター センター長

橋本氏は、ビッグデータでは改善点が見つけにくい場合があるため、一人ひとりの個票データを見るようになったと明言。その例として、配送センターに行き、テープを閉じる直前の箱の中を確認すると、各部門のカタログが大量に入っており、顧客が必要とするものになっていないことがわかったという。そこで、「顧客一人ひとりの過去に届けた商品など、個票データに基づくカタログ同封となるよう整備し直した」と紹介した。

中澤氏は、一人ひとりの顧客行動がわかるビービットのデジタル行動観察ツール「ユーザグラム」を活用していると紹介。「時系列の顧客の動きが非常に見やすく、イシューを特定して創造力を働かせるときに生かしている」と述べた。これを受け、自社でも導入しているという橋本氏は、「大きな意思決定をするときは、該当チームのメンバーを横断で招集して一緒に個別ユーザの行動データを見て問題意識をすり合わせている」とその効果を述べた。

ソニー損保の片岡氏は、「カスタマージャーニーマップ」を作るワークショップを部門横断で短いサイクルで行っていると紹介。その中で出てきた仮説を裏付けるため、コールセンターの通話録音を一人数十本ずつ聞いてから翌週の会議に参加する仕組みや、部門で毎週1時間、ユーザグラムを見る時間を取り、顧客の行動に対する「肌感」を身に付けてもらうようにしていると述べた。「自分も含め役員クラスから一般社員まで100人近くが、アンケートで満足度の低かったお客様全員に電話する」と全社的に顧客理解を行う仕組みも紹介した。

このほか、顧客を軸に部門横断で対話することで、各部門の協力が生まれるといった発言もあった。デジタル化時代にどうしたら顧客から選ばれる存在となれるのか。登壇者からの多くの示唆に参加者たちもさまざまな気づきを得たようだった。

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