日の丸ジェットエンジン繁盛記~大盛況でも深まる矛盾
3社体制の不可思議 長男は「飛躍」避ける
シェアの停滞とともに、もう一つ不思議なのは、三菱重工がトレント1000とGEnxに二股をかけたことだ(それぞれ7%、1%の参加比率)。業界にはうがった見方がある。「IHI1社だけだったら、ナショナルプロジェクトとは言えず、政府助成を出す大義名分がなくなる。GEnxは三菱に助けられた」。
開発費の3分の1を日本政策投資銀行が融資し、利子補給も付く政府助成。参加者にとって、あるとないとでは大違いだが、対立するエンジンへの助成は利益相反にならないか。
そもそも、米国の2社を除き、先進国のジェットエンジン会社は1国1社だ。日本は人的資源も蓄積も3社に拡散し、質的な向上が阻害され(結果的にプロジェクトシェアも低下)、しかも一見、助成のために、なれ合っている風景である。
が、業界の二男・三男に言わせれば、業界の問題は“なれ合い”ではない。「競争させるための3社制であるにもかかわらず、競争できる条件が整っていない」ことだ。
日本のジェットエンジン市場は長く防衛需要が7~8割を占めていた。欧米から導入した戦闘機エンジンのライセンス生産や練習機用エンジンの自主開発。プライム(主契約者)はIHIがほぼ独占してきた。
「練習機F4のエンジンでもIHI以外はシェア5%。それも製造しかやらせてもらえない。開発方針もスケジュールも長男の会社の都合で決まる。これで技術の蓄積などできるわけがない」(業界幹部)
しかも、圧倒的な優位に立つ長男・IHIは、かつての「死に物狂いの飛躍」とは正反対のスタンスをとっている。基本姿勢は“身の丈に合った漸進主義”。IHIにすれば無理もない。V2500の死に物狂いの飛躍では、誰より「胃がしくしく痛む」思いをした。機体同様、ジェットエンジンも、1回の開発の失敗が企業の頓死に直結する。
だから、「飛躍」以後、IHIは安全運転を旨とした。参加プロジェクトを精査し、担当部位も無理な背伸びはしない。今のところ、選んだプロジェクトはすべて大当たりという選球眼である。だが、「飛躍」を避け続けたことが、日本の「産業」にとって正解だったのかどうか。
防衛省の次期哨戒機「XP‐1」。00年初め、石破茂防衛庁長官(当時)は耳を疑った。XPは将来、民間転用も視野に入れているのに、エンジンは双発ではなく4発にする、と言う。今どき、なぜ、経済性で劣る4発なのか。「海自の幹部は『4発はパイロットの安心感です。これに命を懸けるパイロットの気持ち、わかりませんか』と言う。2年間、大喧嘩した。わかった、あなた方が国益、防衛力、パイロットを考え、それでも国産4発がいい、と言うなら、そうしよう。ただし、私が発言したことを記録しておいてくれ」(石破氏)。
XPのエンジン「XF7‐10」はIHIがプライムとして開発した。推力はリージョナル機向けCF34よりやや小さめ。4発ではなく双発にすれば、V2500クラスのエンジンを自力開発しなければならなくなる。そこには到底、手が届かない。開発は防衛省の方針が第一義だが、4発にはIHIの基本スタンスの照り返しが見えなくもない。
次期哨戒機XPは昨年9月、初飛行に成功し、エンジンのXF7も低騒音性が高く評価されている。が、皮肉な目算外れもある。
IHIは10年代の後半をメドに「50席クラスの航空機のエンジンを開発する」ことを掲げてきた。IHI自身、明言しないが、XF7を民間転用できれば、50席のリージョナル機用エンジンに至る“漸進”的な道筋が見えるはずだった。ところが、その50席のリージョナル機市場が消滅しつつある。当初、30~50席を志向したMRJが70~90席へ変更したように、世界中のエアラインが50席の不経済性を見限ったのだ。
ひとまず自主開発を断念するか、それとも、一段格下のビジネスジェット機用エンジンにターゲットを切り替えるか。IHIは、苦しい選択を迫られることになる。