「データの有効活用」でマーケティングが変わる 莫大なビッグデータを無駄にしないために

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ビッグデータを意思決定に活用することで、投資判断の精度が高まる

― ビッグデータや人工知能(AI)などを活用すれば、新しい商品やサービス作りのアイデアが提示されるのではないかという期待もあります。

及川 コンピュータだけの力で、これまで見たこともないような画期的な商品をゼロから生み出すのには、まだまだ時間がかかりそうです。それでも、従来型のリサーチのほうがはるかに実用的です。顧客の声を聞いていけば、正確なインサイトを導き出せるかというとそうでもありません。消費者の多くは「店頭でたくさんの商品を選択できるほうがいい」と答えますが、点数を絞って大きな面積で商品を並べたほうがよく売れるということもあります。消費者自身の言動が一致しないことも珍しくないのです。

APT(アプライド・プレディクティブ・テクノロジーズ)シニアバイスプレジデント日本代表
及川 直彦

一方で、意思決定系については、かなりテクノロジーも進んでいます。特に欧米では「エビデンス・ベースの意思決定」が広く採用されています。大手グローバル企業のほか、行政や教育などでも施策がKPI(重要業績評価指標)にもたらす影響の予測などのためにビッグデータを活用しています。

― 施策を行った効果測定などは、日本の企業も行っています。ビッグデータを用いた意思決定とは違うのでしょうか。

及川 たとえばある店舗に施策を導入した結果、売上が20%増加したとすると、「いい効果が出た」と判断しがちですが、実は施策を導入しなかった店舗がもっと売上を伸ばしていたとするとどうでしょうか。むしろ施策をやらないほうがよかったということになります。あるいは人間が想像もしなかった要因と施策との因果関係があるのかもしれません。従来は人間がこの因果関係を推測していましたが、最近では機械学習などにより因果関係があると思われる条件を抽出するツールなども登場しています。これにより、より幅広い要因との因果関係を特定できるようになりました。

― これからビッグデータをビジネスに活用しようとする企業はどこから取り組むべきでしょうか。

及川 どんなに天才といわれるマーケッターでも、すべてのアイデアが当たるとは限りません。また、同様にビッグデータも万能ではありませんし、それによって爆発的ヒットが生まれるというわけではありません。ですが、人間が考えた玉石混交のアイデアを、データを用いて検証することで、より精度を高めることが可能です。莫大なデータの中から、いわゆるシグナルとノイズを抽出する作業はツールに委ねることができます。それを有効活用してイノベーションを起こすためには、抽出されたシグナルに基づいて判断することが重要です。そして見つけたシグナルにフラットに多くの人の目を通すことで有益なヒントを発見することができるかもしれません。部門を横断し、さまざまな職種の人が集まって、データを前にいわゆる「ワイガヤ」をやってみるといいでしょう。まずは、試行的な小さなプロジェクトで着実な成果を生むことが、データを活用したイノベーションにつながっていくはずです。

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