今度は松下 日本勢に相次ぐ電池事故のナゼ

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無理に高性能化?

 だが、昨夏にはノートパソコン搭載のソニー製電池で過熱・発火事故が発生。最終的に960万個もの回収を強いられ、損失は500億円を超えた。昨年末には携帯電話向け三洋製電池でも異常発熱事故が起きた。そして、今回の松下。わずか1年で日本メーカーすべてが傷を負った。

 松下は過熱の原因について「製造プロセスの途中、ごくまれに(電池内の)絶縁シートに微細なキズがついた可能性がある」とする。だが、相次ぐ事故の背景には、構造的な問題を指摘する向きもある。電池材料に詳しい神奈川大学の佐藤祐一・工学部長は「たとえば携帯電話は多機能化が進み、電池に大容量・大出力化が求められる。一方、サイズは小型化。これは(電池製造に)裏腹な要求」と話す。

 ある国内メーカーを例にとると、過去7年でリチウムイオン電池の能力は6割も増したという。携帯電話などのセットメーカーは、高機能、薄型、軽量化を競い合っている。当然、電池メーカーにはそれらを実現すべく要求があり、さまざまな技術を駆使して応えてきた。佐藤教授は「(そうしたやり取りに)無理が生じたのではないか」と見る。

 これまでリチウムイオン電池には特段の規制がなく、品質や安全基準はメーカー任せだった。昨年のソニー製電池の発火事故を受け、経済産業省は安全確保の検討会を設置。今年3月、携帯用電子機器に使うリチウムイオン電池について、消費生活用製品安全法の「特定製品」に指定すべきとした。目下、業界4団体が集まり、特定製品に対応する技術基準を策定中だ。

 ソニーや松下の事故で露呈したのは「跳ね返り」の大きさでもある。年間出荷は三洋で6億個、ソニーで4億個と、数は家電製品の比ではない。しかも、ノキアのようなグローバル企業への納入量はケタ違いに大きく、設計時など川上段階の原因によって事故が起きた際の回収対象個数は膨大になる。松下の事故は潜在リスクの大きさを示した。

 もっとも、一連の事故で日本勢が萎縮したわけでもない。ノキアが交換を公表した同じ日、ソニーは新工場の建設を発表。三洋も再建の大黒柱と頼むリチウムイオン電池への投資は別格だ。今年度は300億円を投じて国内工場を増強、来年度には新工場建設を始め、過去最大規模の投資に踏み切る。近年は「安さ」を強みに韓国、中国メーカーが急激な追い上げをみせている。相次ぐ製品事故はアジア勢につけいるすきを与えかねない。「安全」を売りに世界をリードしてきた日本の技術力が問われている。

(書き手:井下健悟、渡辺清治 撮影:尾形文繁)

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