北朝鮮ミサイル、「1000キロ延伸」の深い意味 再び発射した「火星12」は前回と何が違うのか

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現在の北朝鮮は米国の強い反発がありながら、1960年代に核ミサイル開発に邁進し、1970年代初めに「核保有国」としてアメリカと手打ちをした中国と同じだ。

北朝鮮は既に、米国との交渉で平和条約や不可侵条約といった「体制保証の約束」を得るよりもむしろ、米中枢部を直撃できる核弾頭搭載のICBMを先に完成させた方が米国との交渉で優位になり、体制の保証に役立つと考えている。

北朝鮮としては、ICBMの完成と実戦配備で米国本土やアジアの米軍拠点を早急に攻撃できるようにした方が朝鮮半島での米軍の行動を抑止できるとの判断がある。

また、34歳の若き独裁者の金正恩氏にとって、米国本土に着弾できる小型化された核弾頭搭載のICBMの完成は、内政面で自らの権威付けや箔付け、実績作りに役立つ。特に祖父や父と比べ、カリスマ性に欠ける金委員長にとって、「核ミサイル」は自国民の国威発揚を図り、内政固めや自らの求心力を高める強力な武器になっている。

前回より1000キロも伸びた

今回の発射は、その北朝鮮の朝鮮中央通信の予告報道通り、日本列島を飛び越えた。前回8月29日と同じ北海道の襟裳岬の上空を通過した。前回の飛行距離は約2700キロで、米軍の要衝グアムまでの飛行距離3400キロには届かなかった。こうした日米韓間で沸き起きた「弱点」指摘を抑え込み、グアムを射程に収めるミサイル技術を見せつけるために、北朝鮮は今回改めて火星12の発射実験を強行したとみられる。防衛省の発表によると、今回の飛行距離は約3700キロに達した。前回より1000キロも伸びたのである。

ただし、「配慮」も見せている。強硬路線をとる北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長だが、前回同様、日本の地上に与える危険と政治的影響を低減するために、北海道の襟裳岬の上空をわずかに通過する形で発射し、意図的に日本の領土を越える時間をできるだけ少なくしたとみられる。北朝鮮は今後も同じような飛翔コースを利用する可能性が高い。

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