米国による「北朝鮮先制攻撃」は藻屑と消えた

もはや「レッドライン」は存在していない

しかし、米国がこの北朝鮮相手のレッドラインを実行するには、これまでに400億ドル以上を費やしてきた米国独自の弾道ミサイル防衛(BMD)の地上配備型ミッドコース防衛(GMD)システムに多額の追加費用が必要となる、とパンダ氏は指摘。「しかし、北朝鮮相手に悲惨な戦争を始めるよりは、こちらの方が望ましく、安くつくことになるだろう」と結論づけている。

一方、元米国家安全保障会議アジア上級部長で、現在は米戦略国際問題研究所(CSIS)の上級副所長を務めるマイケル・グリーン氏は筆者の取材に対し、「トランプ大統領は、後ろ盾となる準備のないまま、レッドラインを示すことはできない」と述べた。

グリーン氏はレッドラインそのものや、具体的な「準備」の内容を示さなかったが、例えば、軍事作戦を行ううえでのインテリジェンス不足があるだろう。米国がかりに北朝鮮の核ミサイル施設を除去するためにサージカルアタック(局部攻撃)を行おうとしても、北朝鮮は数千個のトンネルを持っており、同国の核施設がある場所を正確に見つけるための情報が完全に得られていない。

米軍は核ミサイル施設のほか、非武装地帯(DMZ)近くに重点配備されている長射程火砲の全てを一気に破壊できなければ、韓国総人口の約半分の2500万人が住んでいるソウル首都圏が北の報復攻撃を受け、まさに北朝鮮が主張するように「火の海」になりかねない。

日本は「ノドン」の集中砲火を浴びかねない

さらに、北朝鮮を攻撃するならば、北の反撃にさらされる韓国と日本の両国の事前承認が得られなければならない。日本は朝鮮有事では後方支援基地としての役割を果たすため、日本のほぼ全土を射程に収める弾道ミサイル「ノドン」の集中砲火を浴びかねない。

北朝鮮はノドン約200発を保有し、核弾頭を搭載することも可能とみられている。経済産業研究所の研究員などを務めたマイケル・ユー氏は、2003年の著書『ウォー・シミュレイション 北朝鮮が暴発する日』の中で、東京・永田町付近に北朝鮮の核ミサイルが着弾した場合の死者は42万人、さらに後爆風や放射能による2次被害者は合計81万人と試算した。

また、米国は北朝鮮攻撃をめぐっては、中露の賛同、あるいは少なくとも黙認の同意を得られていなければ、国連安全保障理事会でのお墨付きも得られず、攻撃の正当性をめぐって国際社会や米議会からの批判を浴びかねない。中国の暗黙の同意がなければ、中国は中朝友好協力相互援助条約に基づき、朝鮮戦争の時のように参戦してくる可能性が高い。1961年締結の同条約には、「どちらか一方が他国に攻撃された場合、もう一方は自動的に他方を助ける」という「自動参戦条項」が盛り込まれている。

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