ハリケーン「ハービー」で債務上限問題を突破 被害額は大きいがトランプ政権には前進も

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2014年、2015年の寒波の際には、住宅投資などに落ち込みが見られ、GDPにも一時的なマイナス影響が出たが、雇用者数には影響が見られなかった。「今回も、個別のセクターが一時的に落ち込むことがあっても、景気全体がスローダウンすることはないだろう」と、みずほ総合研究所の小野亮・主席エコノミストは話す。後には復興需要も見込まれるため、長い目で見ればハリケーンの影響だけで景気が崩れることはなさそうだ。

そうなると、金融政策の正常化を進めるFRB(連邦準備制度理事会)にとっても、ハリケーンの影響が利上げのペースを遅らせる直接の要因になることはなさそうだ。現状、市場では12月の利上げについての見方はきっ抗している。「ハリケーンの被害や復興需要はあくまでも一時的であり、それによって金融政策を変更することは考えにくい」(小野氏)。

「ハービー」で債務上限の引き上げはスムーズに?

一方、今回のハリケーンは米国の政治に思わぬ影響を与えている。米議会は目下、10月以降の政府閉鎖を回避するため、9月末までの政府債務上限の引き上げと2018年度予算(暫定予算)の可決を目指している。

だが、議論の進展が乏しいことから、市場は8月ごろからすでに10月のデフォルトを織り込み、10月償還の短期国債利回りが11月償還の利回りを上回る現象が起きていた。8月下旬にはトランプ大統領が「国境の壁の予算を確保するためなら、政府閉鎖も辞さない」と発言し、先行きの不透明感が一段と強まった。

ところが現地の報道では今回のハリケーンの被害をうけて、トランプ政権は145.5億ドルの補正予算を議会に要請することとなり、うち78.5億ドルを2018年度の暫定予算に組み入れる方針だ。「ハリケーン対策の補正予算と一緒であれば、議会も債務上限の引き上げに応じやすい」(小野氏)。ここにきてトランプ氏も前出の発言をトーンダウンさせており、補正予算をきっかけに債務上限引き上げや暫定予算の議論が進展する可能性が出てきた。

歴史的な被害を出したハリケーンだが、一方でトランプ政権については政府閉鎖やデフォルトへの警戒感が後退し、トランプ政権にとっては皮肉にも前進を可能にしたのかもしれない。

平松 さわみ 東洋経済 記者

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ひらまつ さわみ / Sawami Hiramatsu

週刊東洋経済編集部、市場経済部記者を経て、企業情報部記者

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