「終夜運転」始めたロンドン地下鉄の光と影 利便性高まったが、ホームレスの「寝ぐら」に

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夜間の駅では、駅構内での乗客同士のトラブルや不審者の居座りなどさまざまな問題が起こりそうな危惧を覚える。ロンドン交通局はナイトチューブの運行を前に、酔っ払いの嘔吐物を片付けることを想定して車内にチキンスープの缶詰を丸ごとこぼして、それを即行で片付ける「練習」もしたという。

ナイトチューブは日中とほぼ同じような形で順調に運行されている。ただ、目下の運行事業者の「悩み」はホームレスが夜間運行の地下鉄やバスの車内を“寝ぐら”として使うことだという。ホームレスの「利用推移」を調べた統計によると、ナイトバスの車内で寝泊まりする人の数は過去3年で倍以上に膨らんでいる。

東京五輪の終夜運行プランは?

ロンドン地下鉄では、非接触式ICの「オイスターカード」を使って改札に入ると入場後の制限時間が決まっており、一定時間以上改札内にとどまると罰金を取られる規定がある。しかしながら、ホームレスがそもそも正式な切符を持って入場しているかどうかも疑わしく、80ポンド(約1万1300円)の無札乗車の罰金を課そうにも支払いが難しいとあっては、なかなか取り締まりの効果も上がらない。

目下のところ、東京五輪開催時における公共交通機関の終夜運行の具体的なプランについての情報は聞こえてこない、競技が夜遅くまで延びたとき、帰路につく観衆の足のケアはどのようなことになるのだろうか? すべてタクシーに依存するのか、それとも「新国立競技場から山手線内くらいの距離なら歩いて帰ってほしい」と考えているのだろうか? 世界の大都市における終夜運行の事例を見習って、訪日客に対するケアを含めた「深夜の移動手段の確保」を改めて考えてほしいものだ。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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