「明治時代の精神に学べ」ブームの危険な罠 「明治翼賛」一色のありように感じる違和感

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近代を経た日本の「国民」は、武力(国力)の底上げへの奉仕を内面化することを強いられた。奈良氏はこう総括し、政府方針に強い違和感を示す。

「『明治の精神』への回帰とは、時代性を無視した政策へのノスタルジーであり、総力戦の時代が終わったいま、国家戦略としてもそぐわないものです」

近代の出発点として特別な地位を占める明治維新は近年、「日本はすごい!」という自己賛美の素材を提供する「癒やしの供給源」になっている──これが奈良氏の持論だ。奈良氏はこんな警句を発する。

「明治維新への言及が『現状の問い返し』につながっていない。『アトラクション化させた過去の消費』に変わってしまったのだとしたら、それはご都合主義的に加工した歴史への逃避であって、自らよって立つ社会がいかにして出来上がったものなのかを一定の節目で問い直し、未来の課題や展望につながる可能性は皆無です」

政府が「明治150年」の名称で担当部署や関連イベントを統一し、「明治」全般の回顧を装うのに対し、自治体のそれは各地域にちなんだテーマ設定を打ち出している。

「明治維新」を前面に打ち出すのが、明治政府樹立を牽引した薩長土肥(薩摩・長州・土佐・肥前)、現在の鹿児島、山口、高知、佐賀の4県だ。4県の知事は2年前、「平成の薩長土肥連合」の「盟約」を締結。以降、明治150年に向け「幕末・維新」をテーマに広域観光プロジェクトに取り組む。10月には都内で「薩長土肥フォーラム」を開催予定だ。事務局を担う山口県の担当者は言う。

「東京一極集中や人口減少といった難題が山積する中、地域の特性をPRできるチャンスと捉えています。地方創生の時代ですので観光をメインに4県で発信し、相乗効果で全国の注目度をアップさせたい」

戊辰戦争も150年

一方、「明治翼賛の最大の問題は、自国に不都合な歴史的事実の忘却です」と話すのは、鹿児島大学の木村朗教授(平和学・国際関係論)だ。

欧米列強の植民地にされる危機感から日本は明治期に軍備拡張路線を選択し、「アジアで唯一の帝国主義国家」になった。それが、アジア諸国への「侵略」と「植民地支配」という結果を導いた。この歴史の連なりを、礼賛一色の単層では評価できない、と木村氏は言う。

「明治維新の歪みは、長州・薩摩藩を中心とする新政府軍から『賊軍』の汚名を着せられ過酷な弾圧を受けた会津藩の悲劇や、アイヌ・琉球に対する徹底的な差別と一方的な犠牲の強制という問題にも見られます」(木村氏)

東北にとって来年は、「朝敵」の烙印を押され悲惨な戦闘を余儀なくされた「戊辰戦争」から150年の節目でもある。

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