ピコ太郎が国連版「PPAP」で担った重要な役割 日本人に「持続可能性」がピンと来ないワケ

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こうしたイベントからも、ドイツの都市は経済的なものと社会的なものをともに重視して発達してきたことがよくわかる。経済合理性を追求すれば、都市には多くの問題が発生する。社会的弱者が生まれ、工業の発展には環境汚染がつきまとう。人口が過密になれば、交通や公衆衛生の問題なども必然的にでてくる。

都市はこれらの問題を解決するためのイノベーションをおこし、かつ自由や平等、人権といった概念でもって、長期的に全体像をみながらそのあり方を打ち出してきたのだ。ゆえに、規模が小さい都市でも、雇用吸収力があり、生活の質も高いところが比較的多い。

「舶来品」の言葉を理解せよと言われても難しい

一方、日本で「持続可能性」といっても、いまひとつピンとこない人も多く、中にはおおげさに聞こえて身近に感じられないという人もいると思う。

『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか』(学芸出版社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

これは、ある意味当然だ。「持続可能性」とは、主にヨーロッパで積み上げられてきた概念だからだ。日本では、明治に入ってから「人権」「平等」「個人」など、おびただしい数の近代概念が日本語に翻訳されてきた。翻訳学者の柳父章氏の研究によれば、先人達は本来日本にはなかった概念ゆえに、さまざまな工夫をして訳語をつくったという。ただ、意味が正しく伝わるかどうかは別問題だ。 概念が生まれてきた歴史や文化、価値観などの文脈がわからないものを理解せよといっても、土台無理な話だからだ。

しかも、たいていの訳語はインテリや専門家など「特別な人」が専門用語として使いはじめた。昨今であれば、「人権」という言葉などをふりかざし、公に「平等」や「権利」を頻繁かつ強調するような人は「特別な人」として見なされ、活動領域によっては「プロ市民」と呼ばれる。もう少し身近な例だと「意識高い系」と呼ばれる人たちも、こうした用語を使うことが多いのではないだろうか。「持続可能性」という言葉が日本人にとってしっくりこなかったり、おおげさに聞こえてしまう理由もまた、これと同じ事情がある。

ただ、これを「しっくりこない翻訳語」にしておくのはもったいない。現代日本は、著しい経済成長が見込めず、先も読めない。とくに地方創生を考えた場合は、対症療法的な対策が必要な場合もあるが、内発型発展のビジョンもまた必要だ。

ピコ太郎さんの宣伝効果によって、日本でも「持続可能な開発目標」を知る人は増えるかもしれない。言葉を知るだけではなく、同時にこれを意味するところを学び、そして議論する機会が必要になってくるだろう。

高松 平藏 ドイツ在住ジャーナリスト

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たかまつ へいぞう / Heizou Takamatsu

ドイツの地方都市エアランゲン市(バイエルン州)在住のジャーナリスト。同市および周辺地域で定点観測的な取材を行い、日独の生活習慣や社会システムの比較をベースに地域社会のビジョンをさぐるような視点で執筆している。著書に『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか―質を高めるメカニズム』(2016年)『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか―小さな街の輝くクオリティ』(2008年ともに学芸出版社)、『エコライフ―ドイツと日本どう違う』(2003年化学同人)がある。また大阪に拠点を置くNPO「recip(レシップ/地域文化に関する情報とプロジェクト)」の運営にも関わっているほか、日本の大学や自治体などで講演活動も行っている。

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