年収300万円、アパレル店員は軽視されすぎだ 不人気のアパレル業界就職に打開策はあるか

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業界に大きな衝撃を与えたのが、今年の5月にカジュアルファッションブランドのURBAN RESEARCHが一部の大型店舗で試験的に導入した「声かけ不要バッグ」です。店内にある青いビニール袋を持っているお客様に対して、店員からの声かけを控えるというもの。お客様のニーズを反映させるとともに、大型店舗ゆえに接客を効率化する目的もあるということです。評判はというと、ファッションニュースサイトのFashionsnapがアンケートを行った結果、8割以上が導入賛成という結果になりました。

問題なのは、「紋切り型」の声かけ

実際、販売員はマネキンとしての存在意義しかないのでしょうか。実家が用品店という環境に育ったこともありよくわかりますが、私はそうは思いません。洋服選びは本来、販売のプロが付き添うことで、1人で行うよりもはるかに楽しくなるものです。問題なのは、店頭での「お似合いですよ」「こちら人気の商品なんです」「お鏡で合わせてみてください」のような画一的で表面的なセリフであり、こうした声かけが、お客様からは「買わされる」という圧迫として受け止められているのでしょう。

こうした現状を受け、ファッションスクールの最高峰、文化服装学院の「ショップスタイリストコース」で導入されているのが、一人ひとりの心に響く声かけや応対スキルを身に付けるプログラム。紋切り型の声かけを避けるために、ファーストアプローチのバリエーションを増やすトレーニングを行っています。

なお、同校の場合、服を作ることを目指している学生が多い印象がありますが、全体の3割は「ショップスタイリストコース」(販売員)が含まれている流通専門課程に通っています。ファッション業界でどんな道を進むとしても、まずは販売員として現場に入り、お客様とブランドを深く知ることから始めたいという地に足のついた学生が多いのです。

販売職の地位やスキルの向上に関しては世界の大手ファッションブランドも重要視しています。たとえば、「販売に誇りを」という理念を掲げて2016年に発足したのが、「日本プロフェッショナル販売員協会」。代表を務めているのは、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン・ジャパンの元社長であり、現在はフランス本社のシニアアドバイザーに就いているエマニュエル・プラット氏です。エルメス・ジャポンやシャネル、高島屋の代表取締役も発起人として加わっており、そうそうたる顔ぶれです。この協会では、販売職の地位向上につなげるPR活動の実施、セミナーや研修の開催など、さまざまな活動を行っています。こうした活動を通して、販売員が誇りを持って働ける環境が整備されていくことを願います。

それでは、服を作るクリエーターの採用はどうしたら改善されるでしょうか。ものづくりを行う人を惹(ひ)きつけられるかどうかの仕組みはシンプルで、やはりブランドの商品のクオリティに左右されます。いい商品を作っていれば、いいクリエーターがやってくるのです。

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