部下を潰す上司は「叱り方」を理解していない 「叱る基準のない人」は信用されない

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ANAの場合、たったひとつの行為に対しては「アドバイス」や「注意」ではなく、「100%叱る、特に厳しく叱る」という明確な基準があります。それは「安全に影響を及ぼす行為」です。

具体的には、事故のリスクがあるような行動をする、あるいは作業中に自分自身の体を危険にさらしたりするような場合です。

整備士の宮崎は、「ヘルメットをかぶらず高所に上っている整備士を見つけたら、大声で怒鳴ってでもヘルメットをかぶるよう注意する」と言います。普段は「褒める9:叱る1」のバランスが最適と考えているそうですが、安全に影響を及ぼす行為については、そういった気づかいゼロで叱っていい。それが、ANA社員の共通認識になっているのです。

ANAにおいて「安全は経営の基盤」であり、何よりも優先されます。だからこそ、「安全」が叱るときの基準になっているのです。

勤続20年以上のパイロットで、ボーイング767の機長、猿棒正芳は、危険な「行動」をしていなかったとしても、安全に対するいい加減な「姿勢」を垣間見たときには、厳しく対応していると言います。

「50%の確率で天候が悪くなりそうなフライトに対して、副操縦士が『おそらく天気は回復するんじゃないですか。そう信じましょう』などと根拠のない発言をしたら、厳しく諭しています。私たちパイロットは安全運航に対して、つねに最悪のケースを想定する。それが最低限の、そして最も重要な決めごとだからです」

「99%クロ」でも事情を聞く

「安全に影響を及ぼす行為に関しては、迷わず叱る」、これがANAの明確なルールです。では、それ以外は何をしても、いきなり叱られることはないのでしょうか?  

20年以上客室センターに在籍するCAで、ANAビジネスソリューション接遇マナー講師の烏田智子は、「どんな状況であれ、絶対に頭ごなしに叱ることはしません。後輩が悪いことが99%わかっていても、必ず事情を聞き、あとから戦略的に叱る」と言います。

たとえば後輩が遅刻をした場合。ANAの先輩たちは、1回目は「次は気をつけてね」で終わらせます。でも2回続いたら、必ず1対1で事情を聞きます。なぜなら、2回続くことのウラには、何か事情が潜んでいることが多いからです。烏田はこう続けます。

「『傾聴=しっかり聞く』という行為は、後輩の自律成長にとって絶対不可欠な要素です。聞くことで、さまざまなことがわかります。反対に聞かないと、後輩からは絶対に何も言ってくれません。2回遅刻が続いたことに対して、『だらしのない子ね』とレッテルを貼って叱ることは簡単です。先輩にとっては、時間の短縮になるかもしれません。でも、よくよく聞いてみると『不規則な生活に慣れず、夜眠れない』とか、『両親の介護で疲れがたまっている』とか、やむをえない事情があきらかになることもよくあります」

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