フリーゲージ列車がスペインで成功したワケ 開発で苦戦する日本を横目に時速330km運転

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しかし、格安航空(LCC)が発達し、二酸化炭素(CO2)削減の機運が高まるにつれ、欧州全体の高速列車網にスペインをシームレスに組み込む必要性が持ち上がった。そのために選んだ方法は、自国の軌間とは異なる標準軌による高速専用線の建設。この結果、地中海沿いにフランスからスペイン・バルセロナにTGVが直接乗り入れできる高速専用線を新設するとともに、バルセロナからスペインの首都・マドリードまでも同じ仕様の線路を引っ張った。

つまり、スペインは他国とつなぐために国内「フル新幹線」仕様の線路を新たに引いたというわけだ。

高速専用線はいわば「国外とつながる国際鉄道ネットワーク」として造られた一面もあり、これが完成したことでスペインの人々は念願の「フランスへの直通高速列車の旅」を手に入れた。しかし、国内各地に高速鉄道の恩恵をどうもたらすかという課題が持ち上がったのである。

軌間可変技術のおかげで高速列車は全国各地に

スペインには標準軌による高速専用線が現在、マドリード―バルセロナ間に加え、マドリードの北西約180キロメートルにあるバリャドリッドまでとの2つの区間にある。マドリード―バリャドリッド間の移動にはかつて2時間半かかったが、高速専用線のおかげで最短56分まで短縮された。

タルゴ(右側の編成)は左右の車輪を繋ぐ車軸がなく、車高が極端に低くて低重心という特徴がある(マドリード・アトーチャ駅で筆者撮影)

国内北部へ向かう長距離列車はバリャドリッドまで高速運転し、郊外で軌間変更して広軌の在来線に入る。たとえ、在来線区間では従来の速度まで落とす必要があっても、高速区間で1時間半も短縮できるのはメリットが大きい。

スペインは首都・マドリードとフランスとを標準軌で結んだが、タルゴをはじめとするFGTによる国外への進出は断念したかに思われた。実際に、現状の時刻表を調べてみると、FGTはスペイン北部とフランスとの国境駅に寝台列車が訪れる程度で、その他に国外へ出て行く運用はない。

しかし、スペイン国鉄が新たに投入するFGT、タルゴAvrilは3つの方式の集電システム、スペインとフランスの高速線と在来線にいずれも乗り入れられるよう4種類の信号システムに対応する。つまり、スペイン国外での走行を想定しているのだ。なお、1軸車輪が並ぶ基本設計は従来型とは変わらない。

日本のFGT開発においては、1993年にはタルゴ社からライセンスを受けたにもかかわらず、その技術は主に自動軌間変更装置にかかわる部分を生かすにとどまっているのが現状といえよう。日本では狭軌の車両限界寸法に合わせて、機器類を開発する必要があり、床下スペースの都合でタルゴと同一の仕組みを用いることができないためだ。

さらに、車軸の重量問題や試作車の設計速度が山陽新幹線より遅いなどの理由で、長崎ルート用のFGTが関西方面まで足を延ばすのは容易なことではない。FGTについてJR九州は公式の場でもたびたび懸念を表明している。スペインの新型軌間可変電車の知見を生かし、日本でFGTが営業運転する日は来るだろうか。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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