「連れ去られた子ども」を苦しめる制度の正体 なぜ子が「別居した親」の元に戻るのか
一方、父親(貢さん)は美優ちゃんとの面会交流などを求めて調停を申し立てた。しかし再会はなかなか実現しなかった。実現しても3カ月に1回1時間だったり、係争中に面会をキャンセルされたり、8カ月余りも会わせてもらえない時期があったりと、面会は途切れ途切れでしか行われなかった。
そんな不安定な交流ではあったが「パパのところで暮らしたい」という美優ちゃんの態度は幼児の頃から一貫していた。
「娘が小学校に通う前、ショッピングモールで会って、帰ろうとするとき、毎回のようにグズって、2時間ほども店内を逃げ回っていました」(貢さん)
美優ちゃんは面会中に「ママに何度もたたかれる」と貢さんに報告していた。そのことが美優ちゃんの一貫した態度の根底にあるのだろう。
昨年の1月、8歳になった美優ちゃんは決断をした。
宿泊面会の後、父親が美優ちゃんを駅まで車で連れて行った。すぐ前に停まっている母親の車の後に車を停めた父親は、車から降り、反対側に回り、美優ちゃんの手を引いて、すでに車を降りて待っていた母親に引き渡した。父親がその場を離れ、乗ってきた車に乗らずに様子をうかがっていたところ、美優ちゃんは予想外の行動をとった。彼女は後ろへと駆けだして、ドアロックがされていない父親の車に乗ってしまった。
「パパ、早く行って」
頑として降りようとしないため、父親は家へと連れて帰った。
数カ月後、母親のところへ娘を戻すべきいう強制執行を命ずる判決が家庭裁判所で下された。これは2週間以内に、執行官が警察官を伴って、子どもを“保護”、そして母親のところへ戻すというものである。
「指定された2週間に執行官が現れることはありませんでした」(貢さん)
戻ってくることは確信していた
それで問題が一段落するわけではなかった。翌年、間接強制という判決が下されたのだ。これは「3日以内に相手かその代理人に引き渡せ」というもの。父親が従わないと1日当たり3万円の罰金が科せられる。
「私は弁護士とともに、妻の家まで美優を連れて行きました。前の年の春からジョンを飼い始め、溺愛してましたからね。それに“パパのところがいい”と明言していたので、うちに戻ってくることは確信していました。それに強制執行の2度目はありませんし」(貢さん)
美優ちゃんが独りで戻ってくれば、母親が美優ちゃんを合法的に連れ戻すことはできなくなる。
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