日本の「英語対策」は危うい方へ向かっている 翻訳は単なる単語の置き換えではない

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日本政府が期待を寄せるもう1つのソフトは、情報通信研究機構(NICT)によって開発された技術をベースにした、無料配布の翻訳アプリ(iOSとアンドロイドに対応)「VoiceTra」である。同ソフトは 31言語に対応し、優れた音声認識テクノロジーを搭載していると謳うほか、ユーザーが誤訳やエラーを報告できる機能を完備している。が、実際の性能はMTと大きく変わらない。

「this translation isn't remotely correct」という簡単なフレーズを例に挙げてみよう。このフレーズの正しい翻訳は「この翻訳はまったく合ってない」であるが、VoiceTraによる翻訳は「この翻訳は遠隔操作で間違いありません(this translation is definitely being remotely operated)」という非常識な誤訳だった。

翻訳が間違っていてもユーザーが気が付かない

残念なことに、MTやVoiceTraは、1カ国語しか話さないユーザーに向けて販売されていることが多く、ユーザーが、翻訳が正しいのかどうかを判断するのは困難で、ほとんどの場合、正しいものとして受け入れてしまう。このため、ソフトを作っている会社が適切な品質管理や改善を行うのも難しい。

私たちが日常的に使っているウェブやアプリの辞書の多くも同様の問題を抱えている。「駅はどこですか?」というような簡単なフレーズであれば、間違った、あるいは、質の低い翻訳でも意味を理解することは可能かもしれない。が、それ以上の高度な業務をこなすことはできないだろう。

こうした中、日本政府や企業がやるべきことは、英語人材の育成に力を入れることだ。長期的に見れば、低価値なソフトの開発に大金を費やすより、よっぽど将来の国益につながる。

まさに「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」ということなのである(ちなみに、VoiceTraはこの有名なことわざを「男の人は魚を食べさせて1日に食べさせて魚を教えてくれる人は一生」という理解不能な文章に訳した)。

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