「アヒル型マウスピース」異例ヒットの舞台裏 大ヒット狙いではない「微妙な商品」が面白い

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よく、悲しいから泣くのではない、泣くから悲しいのだ、と言います。難しく言うと、生理学的な反応(=泣くこと)が、感情の自覚(=悲しい気持ち)よりも先にある、ということです。普通は、感情の自覚があって、それから生理学的反応があると考えがちですが、心理学的にはその逆だ、ということです。米国のウィリアム・ジェームズ(1842~1910)とデンマークのカール・ランゲ(1834~1900)という2人の心理学者が、ほぼ同時期に唱えました。二人の名前を取って、「ジェームズ・ランゲの法則」と呼ばれています。

これをつらいときに応用すると、つらくても笑え、ということになります。私は笑っているんだから、きっと楽しいんだ、と心が反応するわけです。そうはいっても、つらいのになかなか笑う気にはなりません。でもそれを無理やり笑わせちゃおうという商品が、先ほどのアヒル型マウスピースなのです。名付けて「スマイリーエクササイズ」といいます。

笑う門にはアヒル来る

スマイリーエクササイズの使用方法(ビューティーワールド提供)

「目元を美しくし、口元をキレイにする化粧品はたくさんあります。でも、笑顔をつくる商品はありませんでした」と言うのは写真の中の黒一点、社長の河合良雅氏です。マウスピースのように口にくわえてかむだけで、表情筋を鍛えて口角を引き上げることができます。1個780円(税別)とお手頃です。

「1回約10秒かんで、それを3回繰り返します。これを朝晩してもらうだけで笑顔美人がつくれます」

さらに、外側をアヒル口のデザインにしてみました。するとドナルドダッグ風の顔になり、そのヘン顔がまた若い女性に人気となります。周囲も思わず笑顔になり、コミュニケーションが深まって笑顔あふれる職場や家庭をつくれます。私、笑っているからきっと楽しいんだ、という気持ちになり、周囲にもその楽しい気分が伝わって、笑顔が広がります。笑顔のW効果です。

でも、今まで化粧品を扱ってきた河合社長には未知の分野です。はたして売れるんやろか、とも思いました。ところが、2016年10月末の発売当初に用意した1万個は即完売。現在、この種の商品としては異例の10万個を売り上げています。なおこの7月には、口元を引き締めるイヌ型のマウスピースも発売予定。商品名も「ワンダフルエクササイズ」と決まりました。

こうしたアヒル型マウスピース、大企業の発想からは生まれてこない商品といえます。前述の「ビターネイル」もそうです。ヒットするかどうかはわからん、でもオモロイからやってみよう、という感じでしょうか。社長の持つ独特の勘、微妙な嗅覚が働いています。大ヒットを飛ばすぞ、と肩に力が入りすぎるより、自然体で商品開発するほうがよい結果が出るという好例だと思います。中小企業こそ、微妙な商品に挑戦するべきかもしれません。

竹原 信夫 日本一明るい経済新聞 編集長

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たけはら のぶお / Nobuo Takehara

有限会社産業情報化新聞社代表取締役(日本一明るい経済新聞編集長)。1971年3月、関西大学社会学部マスコミ学科卒、同年4月にフジサンケイグループの日本工業新聞社に入社。その後、大阪で中小企業担当、浜松支局記者などを経て、大阪で繊維、鉄鋼、化学、財界、金融などを担当。1990年4月大阪経済部次長(デスク)、1997年2月から2000年10月末まで大阪経済部長。2001年1月に独立、産業情報化新聞社代表に。年間約500人の中小企業経営者に取材、月刊紙・日本一明るい経済新聞を発行している。
 

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