既婚者が話す「結婚の苦労」は半分ウソである 仕事人間が40歳で電撃結婚してみたら…

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当時、麻子さんには5年間お付き合いしている恋人がいた。名前を正輝さんとしておこう。正輝さんも麻子さんと同じくマスコミ業界で働いており、仕事を通じて知り合った間柄だった。

「私にはない感性があって、モノの見方がカッコいい人でした。これとこれを組み合わせると面白いという発想が斬新なんです。編集のセンスなのでしょう。文章や音楽への造詣も深くて、何を一緒にやっても楽しかったです。当時の私は24時間でも仕事の話をしていたかったので、彼との相性はとてもよかったと思います」

ふと「何か」を忘れていることに気づく

しかし、37歳で仕事に一区切りをつけた麻子さんは、「何かを忘れている」と感じた。あまりに仕事一色で過ごしてきたため、それが何かにすぐには気づけなかったと振り返る。

「最初は、語学やヨガなのかな、と思っていました。両方ともすぐに取り組みましたが、やっぱり何かが違います。東洋経済オンラインで大宮さんの記事を拝見したのはその頃です。大人の結婚のリアルが書かれていますよね。100点満点の人間なんていないので、結婚はいいことばかりじゃない。でも、ポジティブなこともたくさんある。そのことが伝わってきて、結婚っていいなと思うようになりました。私の忘れ物は結婚だったのです」

褒められて照れくさいので種明かしをするならば、本連載のような取材に応じてくれるのは幸せな結婚生活をしている人にほぼ限られる。「こんな結婚はつらすぎる。すごく後悔」と感じているような人は口が重くなるし、筆者も読者も暗い気持ちになってしまう。

だから、明るい話をしてくれそうな人を選んでインタビューしている。のろけ話は野暮だけど、われわれはしょせん晩婚である。変に謙遜するよりは、「ちょっと遅かったけれど、すてきな相手と結ばれた。超幸せ!」と笑っていたほうが絵になるし、周囲も安心するだろう。

麻子さんの話に戻る。ある日、ヨガから帰宅して正輝さんと2人で食事をしていたとき、天啓のように気づいてしまった。

「これからずっと一緒にいるのはこの人じゃない」

正輝さんに欠点があったわけではない。しかし、彼の前ではいつもちゃんとしていなければならない自分がいたのだ。尊敬しているし、お互いを高めることができる相手ではあるけれど、同じ方向を見て歩いていけないと感じてしまった。

「あのときの感情を私は今でもよく説明できません。未練もありました。でも、未来のためには白紙に戻らなければならないと感じたんです。別れを切り出すと、彼は『なんとなくわかっていたよ』と言ってくれました。38歳の誕生日を迎える直前のことです。それから1年間は1人でヨガをしたり海外旅行を楽しんで過ごしました」

身辺整理をして、1人の時間も満喫した。ここで麻子さんは「スイッチ」を入れた。

「東京には人がたくさんいるので出会いのチャンスも多いと思います。もちろん、失敗をしたり嫌な思いをすることも少なくありません。でも、卑屈にならず素直な気持ちで婚活をしようと決めたんです」

覚悟を決めた麻子さんは明快な行動に出る。周囲に「私、結婚したいんです」と公言したのだ。翌年の年賀状にも「そろそろ結婚したい。どなたかいらしたらぜひ紹介してください。小林は本気です」と書き入れた。

「太い黒ペンで、手書きです(笑)。反響はありましたよ。私は独身主義者だと思っていた人もいて、逆に驚かされました。いろんな方が応援してくれて、友達の家に誘われて行ったら、旦那さんの同僚で独身の男性も呼んでくれていたこともあります」

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