闘う経済学 未来をつくる「公共政策論」入門/竹中平蔵 著 ~「リアリスティックな公共政策論」のテキスト

闘う経済学 未来をつくる「公共政策論」入門/竹中平蔵 著 ~「リアリスティックな公共政策論」のテキスト

評者 上智大学経済学部准教授 中里透

霞が関の業界用語に「サブ」と「ロジ」というものがある。「サブ」というのはサブスタンス(政策の内容)のことであり、「ロジ」はロジスティクス(仕事の段取り)のことだ。

一見するとサブのほうがロジよりも重要なように思われるが、霞が関の常識では、必ずしもそうとはかぎらない。仕掛け方によっては、ほとんど内容のない政策があれよという間に実現してしまうことがあるし、どんなに意味のある政策でも、ロジがきちんとしていないと日の目を見ないことがあるからだ。

では、こうした中で、内容のある政策をきちんと実行に移すためにはどうすればよいのだろうか。本書は、この点に関する示唆に富む、「リアリスティックな公共政策論」のテキストである。

本書における著者の問題意識は、経済学と実際の政策の「すき間」をどのように埋めていくかということにある。さまざまな課題についての政策判断をするうえで、「経済学の基本的な考え方はとても役に立つ」が、「現実の経済は、教科書に出てくる世界よりはるかに複雑」であり、「どんな政策も、民主主義の政治プロセスを経なければ決めることはできない」。したがって、この「すき間」をうまく埋めていくことが、「リアリスティックな公共政策論」のポイントということになる。

この点を踏まえると、「闘う」公共政策論には経済学と政治過程論の知見が共に必要だということになる。本書において想定されている経済学の役割は、手書きでシンプルな見取り図を描くためのツールとしての役割であり、この見取り図は物事の全体像を把握するうえでとても役に立つ。

だが、経済学だけでは実際の政策課題に対する具体的なソリューションは得られない。「いくら理想的な青写真を描いたとしても、それを実現するためのプロセスまで含めて戦略的に考えなければ政策論にはならない」からだ。

そこで、政治過程論が必要だということになる。この政治過程論の基礎をなすものは、法律から通達に至る複雑な制度の体系と、複雑な利害調整を伴う政策決定プロセスの双方に関する詳細な知識である。

本書でなされている興味深い指摘のひとつは、政策決定プロセスが、環境の変化に応じて絶え間なく変化していく生き物であるということだ。実際、「ねじれ国会」の下での政治過程は、本書に描かれたものとはまた違ったものになっている。

本書で学んだ分析枠組みを基に、読者が自分なりの「応用編」を書いてみると面白いかもしれない。

たけなか・へいぞう
慶應義塾大学教授(同グローバルセキュリティ研究所所長)。1951年和歌山県生まれ。一橋大学経済学部卒業後、日本開発銀行入行。大蔵省財政金融研究所、ハーバード大学、大阪大学などを経て、慶應義塾大学教授。2001~06年小泉内閣で経済財政策・金融・郵政民営化各担当相、総務相を歴任。

目次

序 章
経済学と現実政治との隙間で
-経済学の力
第 1 章
ケインズ的常識と闘う
-マクロ経済政策の基礎
第 2 章
「増税論」と闘う
-財政政策
第 3 章
金融危機と闘う
-不良債権と金融再生
第 4 章
失業と闘う
-産業と政策
第 5 章
役人と闘う
-地方財政改革
第 6 章
“既得権”と闘う
-郵政民営化の経済学
第 7 章
抵抗勢力と闘う
-経済財政諮問会議の役割
第 8 章
千変万化の政治と闘う
-政策決定プロセス
終 章
権力と闘う
-改革の戦術とリーダーの条件

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