セミナーレポート

次世代金融サービスの新しいカタチ

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デジタル技術との融合で、大きな変化が起きている金融サービスのこれからを考える「FinTech カンファレンス2017」が3月14日に東京・中央区で開催された。金融機関の企画、マーケティング、サービス部門の担当者らが参加。FinTechがもたらす影響や可能性、金融機関の対応について検討した。
主催:東洋経済新報社
協賛:日本アイ・ビー・エム

オープニング

日本アイ・ビー・エム
執行役員
インダストリー・ソリューション事業開発担当
鶴田規久

IBMの鶴田規久氏は、AIなどを使ったコグニティブ・テクノロジーの銀行業務への活用の可能性について語った。すでに、自然言語での対話機能による顧客対応の自動化、認知機能によるコールセンター業務、学習機能による保険金支払い業務が実用化段階にあると指摘。今後、さらに顧客接点におけるフロント・チャネルの高度化、カスタマイズされた顧客マーケティング、AML/KYCなど、リスク管理業務の効率化、バックオフィスにおける事務処理の自動化などにより省力化、生産性の向上が進むとして、「テクノロジーによる業務改善の段階から業務変革実現の段階に」なったという認識を示した。また、「これらの新しいテクノロジーの活用が金融商品の開発やサービスの差別化に大きく寄与する」と述べた。

基調講演
FinTech時代の新しい銀行店舗戦略とは?

成蹊大学経済学部教授
永野護

成蹊大学の永野護氏は、FinTechがもたらす銀行経営刷新の可能性について話した。日本の銀行は、法人重視のビジネスを展開してきたが、今後は個人顧客向けビジネスの収益化がカギになると、海外の金融機関の動向などから予測。有望なのは、個人向けの家計・資産管理サービス(PFM)やモバイル決済の分野で、FinTech企業との連携によって、銀行は個人のキャッシュフローなどの情報収集が可能となり、こうした個人情報を活用すれば、債務履行能力に応じて金利の異なる個人ローンの提案など、さまざまな事業展開の可能性が広がる、とした。しかし、国内金融機関が2000年代以降に進めた無人店舗化で、収益源になるかもしれない個人顧客を喪失した可能性があるとも指摘。5万円以下の決済手段の主流である現金決済が、モバイル決済などに代替されると、現金を引き出す無人店舗のATM利用は減り、PFMの差別化などで対面接点の重要性が増すと指摘した。PFMなど個人向けサービスは今後、市場競合が激しくなると見られ、永野氏は「早く個人市場から高い収益を確保する仕組みを考えるべき」と訴えた。一方で、イノベーション達成の見通しが、まだはっきりしない仮想通貨など、ほかのFinTech領域は、市場競合度が低く、高い収益も期待できるとして、バランスを考えたイノベーション推進を考えるように促した。

事例講演 顧客サービス改革事例
みずほフィナンシャルグループ(FG)におけるFinTechの取り組みと銀行APIのエコシステム

みずほフィナンシャルグループインキュベーションPT(現デジタルイノベーション部)
シニアデジタルストラテジスト大久保光伸

みずほFGの大久保光伸氏は、テクノロジーの進歩により、金融とテクノロジーの融合を表すFinTechに関するみずほ銀行の取り組みを紹介した。同行は、IBMのAIワトソンと人型ロボットを組み合わせることで、高度な顧客体験を提供している次世代型店舗等が評価され、国際的な銀行業務におけるイノベーション表彰を受ける等、FinTech企業やIT企業と連携したオープンイノベーション推進に注力している。具体的には、AIを使った資産管理アドバイザリーサービスの提供や、AIとビッグデータを活用した新しいレンディングサービスの準備を進めている。また、ブロックチェーン技術を使った国際証券取引、国際送金等の実証実験も行っている。こうした連携・協業による革新的な商品・サービスの実現を目指すうえでカギとなるのが、残高照会などさまざまな機能を個別にサービス化して、社内外のアプリから利用できるようにするAPIの仕組みだ。みずほFGは、自社APIを中心とするエコシステム構築を推進。スタートアップのIoT通信プラットフォームとの連携で、多様なIoTデバイスからの決済システムの研究も進める。今後は、企業側が把握した個人のニーズを基に、新たなビジネス展開が進むとみられ、大久保氏は「取引情報を活かした顧客向け新サービスには注目しています」と述べた。

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