1500馬力!ブガッティ「シロン」に乗ってみた 時速100kmまで2.5秒以内の超絶加速

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「これなら、毎日乗れるね!」

思わず、そう語りかける。サングラスをかけたアンディは破顔しながら、大きく頷いた。

実際、ヴェイロンと比べると、圧倒的に静かで、抑制が効いている。クーリングシステムの劇的な向上も効いているはず。そして何より、乗り心地がいい。これはブガッティ初のアダプティブダンピングシステムの採用に拠るところが大きい。後にも述べるが、微速域から超高速域まで、制御の緻密さと精緻さは、今現在、世界一のレベルにあるというべきだ。

気がつけば150km/hぐらいで“流している”自分がいた。コーナリングでもほとんど減速しなくていい。ちょっとオーバースピードかな、と思っても、クルマが姿勢を正す。それも、急に出力を落としてドライバーにヘタクソ度合いを知らしめるような無粋さは皆無。どこまでも、自然だ。つまり、さっきも書いたが、制御が素晴らしい。

もちろん、クイックな動きにも即座に反応する。前アシのさばきは、ヴェイロンに比べて圧倒的に軽やかで、かつ、正確だ。

ちらっと横をみれば、アンディは相変わらず笑みを浮かべて頷いている。クルマを信頼しきっているから、初めて会ったどこの馬の骨かも分からないオッサンが、3億円もする1500馬力の最新型スーパーカーを運転する隣でも、そうして笑っていられるのだろう。何しろ、自分たちで手塩に掛けて育て上げたのだ。

アクセルペダルを踏み込むのみ!

スペシャルステージが用意されていた。いったん停止してゼロ発進を試してみろ、とアンディ。実はローンチコントロール(発進を最大限効果的に行なう装置)も備わっているが、アンディ曰く「そんなもの使わなくても十分に速い」

パドルでシフトするように準備しておけば、あとはコンピューターがベストのタイミングで自動的にシフトアップしてくれる。ドライバーはしっかりと前を向いて、アクセルペダルを踏み込むのみ!

上半身が一瞬にしてのけぞったかと思うとバックシートに張り付いた。一直線路がいっきに針のように見え始める。周りの景色が溶けて見える。血流が全部、身体の後半分に張り付いたまま、のよう。それでも、シロンはすさまじい安定感を保ったまま、エンドレスな加速フィールを与え続ける。メーターを見る余裕はないが、アンディと軽く会話する余裕はある。安定しているのだ。

200km/hを超えてくると、どれだけ平坦に見える道路でも、まるで連続する段差を超えて走るような感覚になる。シロンは、「タンタンタンタン」と小気味良く“段差”をこなしながらも、その四肢を路面に張り付かせたままだ。

アンディの「ブレーキ!」という掛け声で、左側のペダルを踏んだ。アッという間に速度は落ち着き、ドライバーもすーっと大波が引けたように落ち着く。嫌な汗はかかない。その信頼感の高さこそが、シロン最大の魅力だとも思う。

エティエンヌが考えだした、センターの刀のようなステーにある小さな4つの丸いメーターには、実は隠しモードがある。ボタンひとつで、直前のドライブレコードを呼び出すことができるのだ。

アンディが言った。「キミの成績を見てみようじゃないか」

上から順に、その数字は、6700回転、320km/h、1475馬力。とりあえず、ファーストドライブとしては十分ではないだろうか?

「悪くないね」

アンディはそう言って、その日イチバンの笑顔をみせながら、握手を求めてきた。

(文:西川淳)

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