任天堂社長が説く、ヒットゲームの新法則 任天堂・岩田聡社長ロングインタビュー(上)

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娯楽商品は、事前にこのように作れば何本売れるとわかっているものではなく、当たり外れが必ずある。これはテレビゲームだけではなく、映画だろうが音楽だろうが、小説だろうが同じ。もちろん、この作家が書いた本、このアーティストが作った曲というものは一定のアテンションが集まるので、必ずここまではというものはあるかもしれない。だけど、そこから先、本当にブレイクするかどうかはお客様が共感できるかで決まるわけで、完全に今の消費構造は共感するかどうかにかかっていると思います。

「受け入れてもらえなかったら負け」

もうひとつは人の時間の問題です。確かに消費者の時間はどんどん細切れになりやすい。それはなぜかというと、情報量が圧倒的に増えているから。もうとにかく処理しなければいけない情報量が多いわけです。家にいても自分のスマートフォンにどんどんメールが入ってき、さまざまなソーシャルネットワークサービスで自分の友達が返事を求めて何かメッセージを送ってくる。ある意味、退屈しないとも言えるし、まとまった暇ができにくいともいえる。

われわれにとって悩ましいのは、ゲームにものすごくエネルギー(時間)を割けるお客様にとっては、量は多ければ多いほど喜んでいただける。だが、だからといって量の多いものを作っても、多すぎて消化しきれない人もいる。短い時間で終わらないと遊べないという人から、長く遊びたいという人まで、ゲームに求めるダイナミックレンジがものすごく広がっているのです。その広がりに対して、作り手が何をするかは以前より難しくなっているのです。

ピクミン3のゲーム画面

ただ、それを解く方法がないとは思っていません。たとえば「とびだせ どうぶつの森」は、細切れの時間で遊んでいただきやすい構造の携帯型ゲームになっている。蓋を閉じたら中断でき、蓋を開けたらすぐ再開できるという構造と、1日のうちほんの少ししか遊ばなくとも、1日中長い時間遊んでも、お客様の遊び方の選択次第でどっちの遊び方でも楽しめるように作ってあります。

7月に出した据置型ゲーム機・WiiU版の「ピクミン3」というソフトも同じ思想。作り手の人たちが、とりあえずクリアするという遊び方も、繰り返しプレイをして自分の技量を高めていくという遊び方も、どっちもできるようにしないと今の世の中のニーズに合わないよねと、議論を繰り返して意図的にそう作り込んでいる部分があります。

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