結局「生きる力」は知識だけじゃ身につかない CCC増田社長、孫泰蔵氏が語る教育論

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自分で工夫して切り拓く力を身につける上でもっとも大事なことは、人生のできるだけ早くに、「自分で何かが変えられる」という実感を持つこと。どんなに些細なことでもいい、やってみたら周りの大人が驚いてくれたり、何かの役に立って感謝されたりしたという経験だ。

子どもだから何もできない、なんてことはない。そしてこういう経験をすれば誰でも「俺にも何かできる!未来を変えられる!」と思うようになる。私は自身が経営者であるだけでなく、世界中の起業家に接してきたが、彼らに共通するのはこの経験だ。

「自分しか頼りにならない」場に身を置く

増田氏:僕は幼稚園時代に交通事故に遭い、一時は半身不随になった。顔に大きなキズが残ったので、小学校に上がると「お岩さん」と言われてひどくいじめられた。

CCCの増田宗昭社長。同志社大学を卒業した1973年に鈴屋入社。1983年にTSUTAYAを創業。2011年から代官山を皮切りに、アートや旅などの書籍を充実させた「蔦屋書店」を展開。蔦屋を核とする複合商業施設「T-SITE」も神奈川・湘南、大阪・枚方に出店。(撮影:今井康一)

高校生になって体も強くなったので、レスリング部に入ったのだが、それは「マットの上では自分しか頼りにならない。そういう場に身をおいてとことん戦ってみよう」と考えたから。選手としていいところまでいき、小さいころに僕をいじめていた子も後でやっつけた。いじめられっ子のときは、道を歩くのが本当に怖かった。それが堂々と歩けるようになったのは、レスリングを頑張ったから、ただそれだけなのだ。

僕の親について話すと、母は大変な教育ママで、いつも「勉強しなさい」と言っていた。だが親父はちょっと変わった人で、僕が何を言っても「うん」としか言わない。大学卒業後に入ったアパレル会社を辞めると言っても、家の田んぼを借金の担保に入れると言っても「うん」としか言わない。

要するに全部OK。そうなると相談しても意味がないし、最後は自分で考えざるを得ない。だって、「親父はうんと言ったけれど、失敗したら借金だけが残って増田屋(家業の屋号)が潰れるやん!」って思うから。だからどうしたらいいか、一生懸命考えた。今振り返ると、親父は僕の主体性を育んでくれたのだと思う。

杉本 りうこ フリージャーナリスト

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すぎもと りうこ / Ryuko Sugimoto

兵庫県神戸市出身。北海道新聞社記者を経て中国に留学。その後、東洋経済新報社、ダイヤモンド社、NewsPicksを経て2023年12月に独立。

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