東芝、子会社幹部が部下に課した「不正圧力」 決算遅延を招いた「内部告発」を徹底検証

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この見積もりで、WHは「作業効率が3割改善する」という前提に立った。これが今回の巨額損失を招いた。14日、東芝は米原発事業で約6700億円の追加コストが発生すると公表したが、これは「作業効率がいっさい改善しない」前提に変えたためだ。

次に「内部統制の不備」である。1月28日の聞き取り調査では「WH経営者による不適切なプレッシャーを懸念する指摘」があったという。

米国の原発工事が遅延し、作業効率は改善するどころか悪化していた中での「プレッシャー」である。それは「『建設会社を買収することで作業効率が3割改善する』という筋書きに沿って追加コスト、ひいては負債を少なく計算しろ」という圧力だったのだろう。

「チャレンジ」と同じ構図

ダニー・ロデリックWH会長。最近まで原発建設のバラ色計画を口にしていた(撮影:富田頌子)

WHの経営者が圧力をかけた動機は現在不明だが、追加コストが大きければ、東芝は債務超過に陥る。実際、東芝が任意に発表した決算見通しでは、12月末の株主資本は1912億円のマイナス、つまり債務超過だった。WHの経営者は、それを避けようとしたに違いない。一部報道では、プレッシャーをかけたのは15日に引責辞任した東芝の志賀重範元会長と、WHのダニー・ロデリック会長だとされる。両人は共に東芝・WH双方で重要ポストを兼務していた。

2015年に発覚した不正会計で、東芝の経営陣は利益捻出のために架空利益を計上する「チャレンジ」を部下に強いた。今回もそれとまったく同じ構図である。

東芝はすでに6700億円の損失を計上しており、調査結果によって決算内容が大幅に変わるとは考えづらい。ただ今回、東芝の隠蔽体質に何ら変わりはないことが露呈した。東芝の公表資料には「経営者による内部統制の無効化」という表現まで使われている。詳細は調査を待つしかないが、東芝が失った社会的信用は果てしなく大きい。
 

山田 雄一郎 東洋経済 記者

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やまだ ゆういちろう / Yuichiro Yamada

1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。

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