サムスン携帯工場の知られざる全貌

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サムスン携帯工場の知られざる全貌

韓国の首都・ソウル特別市から南に257キロメートル。人口39万人の亀尾(クミ)市にサムスンの携帯電話の主力工場はある。日本人記者が工場内に入るのは今回が初めてだ。

1996年に生産を開始した携帯電話の専用工場は現在、全2棟。総床面積28万平方メートルの構内には「超一流」「跳躍」「GLOBAL競争力」「変化」「革新」「SPEED」「最高効率」などのスローガンがあちこちに大書されている。亀尾工場の1万2300人の従業員のうち8900人が携帯電話要員。残りはハードディスクドライブ(2200人)やプリンタ(470人)、ストレージ(400人)だ。

平均年齢22歳と若い職員は敷地内に2棟並ぶ宿舎から歩いて出勤してくる。宿舎の家賃はタダ。工場は1日8時間の3交代労働制で24時間稼動。1時間に10分間の休憩時間を除けば、「稼働率はいつも100%」(亀尾工場の金南成(キムナムソン)・総務課長)。機械装置の研修に力を入れていて、「目指しているのは『自律現場』。簡単な機械トラブルなら誰でも自分で直せるように教育している」(金課長)。このことが稼働率100%を裏打ちしている。

2007年に工場を増設することなく4割もの増産に対応できたのは、亀尾工場の現場力だ。

現場の工夫を吸い上げる仕組みが、携帯電話の生産を開始した88年から続けている「分任ノート」だ。業務日誌の一種で、「分任」は最小単位の現場の改善チーム。現場の職員は、1日の仕事を終えた後、生産効率改善のアイデアや実績を中心に毎日書き込む。

分任ノートの結果、最近では、かつて40メートル弱あった生産ラインを、途中で上下に折り返すなどの工夫の積み重ねで、16メートルにまで縮めた。「生産ラインの短縮化や製造スピードの向上などプロセスの改善で、生産効率はまだまだ上げられる」(金課長)。

厳しい検査工程も亀尾工場の自慢の一つ。顧客以外には非公開なので今回は見ることができなかったが、「携帯電話は家電製品よりも高い信頼性が求められる。3万回の開閉試験のほか、ロボットのアームが携帯電話を床に叩きつけるなど、サムスンでしかやっていない信頼性テストがいくつもいる。検査工程数は日増しに増える一方だ」(金課長)。

このほか、敷地の一部を外部の大学に貸す形で技術系の単科大学を98年に設置。2000年に総合大学化、01年には大学院を新設した。働きながら卒業した職員はすでに2981人を数えるほか、現在も1472人が在学中だ。

新製品開発数は日本の全メーカーの合計に匹敵

上の写真で一目瞭然のように、32万平方メートルの敷地はまだ増設の余地十分。金課長は、工場と宿舎の間にあるサッカー場を指差し、「ここに工場を建てる頃には、サムスンはノキアを抜いて世界一の携帯電話メーカーになっている」と声を弾ませる。「それはいつか」と聞くと「早ければ早いほどいい」とニンマリ。

09年稼働をメドにベトナムに工場を新設中。インド、ブラジルにも工場建設を予定しているが、「日本向けのプレミアム携帯(高付加価値の携帯電話)は亀尾で作る」(金課長)。マザー工場はあくまでも亀尾。「亀尾工場は世界で最も競争力のある最先端の携帯電話工場だ」。金課長は眼を輝かせる。

8900人の携帯電話要員の3割弱に当たる2400人が携帯電話専門の開発人員だ。金課長は「製造現場と開発部隊とが直接つながっているから開発効率がいい」と胸を張る。

ただ、新機種のアイデアは製造現場からも定期的に募っている。その中から製品化されたアイデアもある。その意味では、新機種開発は全社一丸態勢といえる。

サムスンは07年の1年間に約100の新機種を投入した。これは日本の全11メーカーが07年に発売した機種数に匹敵するが、殷鎮杓(ウンジンピョ)・主席エンジニアは、「現在の顧客ニーズが100種類あったからそれに合わせて100機種開発しただけ」と事もなげに話す。「将来、ニーズが多様化すれば、新機種はもっと増える。サムスンには豊富なリソース(開発資源)があるから対応は容易」(殷氏)。

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