日本のサービス業は「1人あたり」でG7最低だ ITに合わせて「働き方」を変える努力を

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米国中央情報局データより筆者作成

日本の1人あたりGDPは3万6434ドルですが、先進国上位15カ国の平均は4万7117ドルでした。その差額1万0683ドルのうち、9824ドル(92%)は、サービス業で説明がつきます。経済における比重が高くなっているのに生産性が非常に低いサービス業は、1990年以降の日本と海外の生産性のギャップ拡大に、最も大きな影響を与えているのです。

日本のサービス業は「良いものを安く」売っているのか

日本は、問題を指摘されると、反射的にその指摘を否定したり、問題自体を正当化したりする傾向が強いように感じます。指摘の本質を検証して、問題があるのであればそれを直すという建設的な動きには、なかなかなりません。

生産性に関しても、同じ傾向が認められます。私が「日本はサービス業の生産性が低い」と指摘すると、必ずと言っていいほど「日本人は長い時間、まじめに働き、すばらしいサービスを提供している。一見、生産性が低く見えるのは、サービスに応じた対価をもらっていない、もしくは求めていないだけだ」と反論されます。

各論としては、そういう業界や会社もあるのかもしれません。しかし、この問題は「総論」で考える必要があります。500兆円の経済、1億2700万人の人口を抱える日本において、すべてのサービスが海外より優れており、対価をもらっていないだけというのは、どう考えても無理のある仮説です。

たとえば、ひとつの例として観光業を考えてみましょう。寺院や城址などの文化財は、主要な観光資源です。前著『国宝消滅』で日本と海外の主要な文化財の入館料を比較したのですが、海外の平均が1891円だったのに対し、日本の平均は593円でした。

海外の文化財は日本の数倍の修理予算を使って、より良い保存状態を保っています。解説や展示もずっと充実していますし、飲食施設を併設するなど、入館料の分だけサービスを向上させています。日本の文化財の「観光資源としてのポテンシャル」が海外に見劣りしているとは思いませんが、サービスでは明らかに劣っています。ですから、入場料の違いを「対価をもらっていないだけ」と説明するのは、やはり無理があります。改善されつつありますが、国立公園の活用も不十分で、体験コースもまったく足りていません。

もちろん、これらの文化財や国立公園で働く日本人も、「まじめに働いている」のだと思います。私が申し上げたいのは、まじめに働いているかどうかよりも、今の需要に応えられていない部分、おカネにならない仕事を優先したり、おカネになる仕事をやらなかったりしている部分があるのではないかということです。対価を取っていないだけというのは、やはり言い過ぎでしょう。

次ページなぜ1990年代から「生産性の差」が拡大したのか
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