「オプジーボ」、特許で勝っても視界は晴れず 特許使用料を受け取れるようになったが・・・

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オプジーボはがん細胞がかけている免疫のブレーキを解除し、人が本来持っている免疫力でがんを攻撃する仕組みの抗がん剤。がん細胞を直接攻撃する従来の化学療法とはまったく異なる効き方をし、末期患者でも年単位で生存する患者が現われている。2014年に悪性黒色腫を対象に世界に先駆けて国内で発売。2015年には非小細胞肺がんにも効能が追加され、対象患者数が一気に増えた。その後も、国内外で効能追加が続いている。

一方、メルクもほぼ同時期に同じメカニズムのがん治療薬「キイトルーダ」を開発。海外市場でオプジーボとシェア争いを演じているほか、国内でも昨年、悪性黒色腫と非小細胞肺がん向けで承認された。

キイトルーダとの競合は激化しているが、その中で小野陣営とメルクが歩み寄った背景には、新たなライバルの出現が迫っていることがある。

有望市場であるがん免疫薬への参入は世界のメガファーマが狙っている。スイスのロシュと子会社の中外製薬、英アストラゼネカ、米ファイザーと独メルクはオプジーボとは異なるメカニズムの免疫薬を開発中。これらの開発が成功すれば「オプジーボ陣営」にとって大きな脅威となりうる。その前に適用がん種の拡大などを急ぎ、リードを広げておきたいところだ。

薬価下げの影響はカバーしきれない

開発が成功した時には “夢の薬”ともてはやされたオプジーボだが、2016年は高額薬価問題の矢面に立たされた。肺がんの場合で1人当たり年間3500万円もの高額薬価が注目され、次回2018年の薬価改定時期を待たずに異例の緊急引き下げが決定。2月から薬価は50%引き下げられる。

年間販売額が1500億円超なら最大50%薬価を引き下げるという市場拡大再算定の特例が適用されたためだが、オプジーボの予想年間販売額は1260億円。それに流通経費等を上乗せして算定された。当初の薬価自体、国が決めたものであり、小野薬品としては完全な誤算となった。

2月から薬価は50%引き下げられる(写真:小野薬品工業提供)

今回の和解で小野薬品は、メルクのキイトルーダの売り上げに応じてロイヤルティを手にすることになるが、同薬の世界売上高は2016年1~9月で約9.2億ドル(約966億円)。1000億円とすれば、小野薬品に入るロイヤルティは16億円程度にすぎない。もちろん、ロイヤルティは今後の販売次第だが、これだけで薬価引き下げの影響をカバーするのは難しそうだ。

今後も競合薬の追い上げに加え、医療費抑制を背景にした国の薬価政策に引き続き翻弄される可能性がある。今回の和解は小野薬品にとって良いニュースであることは間違いないが、懸念材料を払拭するには物足りないというところだろう。

山本 直樹 東洋経済 記者

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やまもと なおき / Naoki Yamamoto

『オール投資』、『会社四季報』などを経て、現在は『週刊東洋経済』編集部。

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