分断とねじれ、トランプの米国はどこへ行く "正統性"や支持率なき船出、その向かう先

✎ 1〜 ✎ 60 ✎ 61 ✎ 62 ✎ 最新
拡大
縮小

第3と第4の行動は、中国を意識したものである。

財務省は年2回、議会に対して各国の貿易・為替政策に関する報告書を提出しなければならない。その中で「為替操作国」に指定された国に対して、財務省は対抗措置を取ることが義務付けられている。だが、議会の圧力にもかかわらず、財務省は中国を為替操作国に指定することを拒んできた。財務省の措置は必ず中国の報復措置を招くことが明白だからだ。共和党議員は、そうした財務省の姿勢に不満を抱いていた。トランプ大統領は、財務長官に強制的に中国を為替操作国に指定するように命令しているのである。大統領の命令が出れば、財務省も抵抗はできないだろう。

第4の行動も、中国政府の輸出補助金や、中国からの輸入品に対する関税引き上げが問題になってくる。こうした政策が実施されれば、米中為替貿易戦争が始まり、戦後の自由な貿易制度の根幹が崩れてくるかもしれない。トランプ大統領はWTOに関して、特に指摘していないが、WTO脱退もないとは言えない。WTO条約には「いかなる加盟国も脱会が認められる。WTO事務総長が書面による脱退の通告を受けてから6か月目に脱会は有効となる」と書かれている。

ちなみに第4の行動に関わる商務長官はニューヨークの大富豪で破産問題専門の投資銀行家のウィルバー・ロス氏、米通商代表部代表はレーガン政権の通商代表部副代表だったロバート・ライトハイザー氏である。ライトハウザー氏は弁護士で、通商問題を巡って主に鉄鋼会社の代理人として活動し、通商ルールの厳格な適用を主張してきた人物である。その意味で、「外国の貿易上の権利濫用」を取り締まるには最適な人物ということになる。国家通商会議(National Trade Council)の責任者に任命されたピーター・ナヴァロ氏はカリフォルニア大学教授で、中国批判の急先鋒の人物である。

第5から第7はエネルギー開発と環境問題に関する政策である。共和党議員の多くは、地球温暖化問題はリベラル派の陰謀であると本気で信じている。ただ、トランプ政権の関係者の言動を見ると、地球温暖化問題の主張のトーンを弱めているので、最終的にトランプ大統領がどのように判断を下すか不明である。さらに付け加えれば、保守派や共和党議員は、国連の役割に対して否定的な意見を持っている。

反自由貿易主義では議会共和党と対立

トランプ大統領の政策の優先課題は「海外からの雇用の奪回」である。要するに、従来の自由貿易協定はアメリカの利益を損なってきたというところから出発している。その批判の対象となるのが、企業の海外への工場移転(雇用の移転)である。

大統領(当時は次期大統領)のツイッター上の呟きを受けて、米フォードなどは国内工場の新設・増強を表明した。大統領がつぶやいたからと臆病風を吹かす企業も企業だが、そもそも大統領には特定の企業に「国境税」を課す権限があるのだろうか。法的根拠なく特定の対象に"口撃"を加えて、思い通りにしようというのは法治国家ではない。アメリカの憲法には、関税を決めるのは大統領権限ではなく、議会の権限と書かれている。大統領が勝手に関税を課したり、税率を決めることはできないのである。

中国からの輸入品に対してトランプ大統領は一方的に懲罰的な関税を課す権限は持っていない。アメリカ国内の国際貿易委員会、議会の審議、あるいはWTOへの提訴という法的な手続きが必要である。中国を為替操作国に指定するように財務長官に支持することは、法治国家ではありえないことである。

次ページ奇妙なねじれ
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT