入学半年後には英語で研究発表を
文科省による博士課程教育リーディングプログラムは全国から63のプログラムが採択されているが、前年度の中間評価で最高評価を得たのは、わずかに3プログラムのみ。このプログラムは、オールラウンド型、複合領域型、オンリーワン型という三つのタイプに分かれるが、オンリーワン型で最高評価を獲得したのは山形大学だけだ。
東原 知哉
山形大学のプログラムは、修士課程と博士課程を5年間の一貫教育ととらえ、有機材料の分野で高度な専門知識を修得したうえに、創造性と主体性を備えた博士人材を育てるのが目的だ。毎年12人の定員で学生を募集し、選抜試験に合格した学生は全員授業料を免除されるだけでなく、月額15万円の奨励金も支給される。そのうえ大学から徒歩5分の寮は、寮費が3万7000万円で、そのうち1万7000円は大学が負担するというから、驚きの好待遇だ。
「勉強に専念できる環境を整えようということで、アルバイトも原則禁止と規定しています。実際にはアルバイトをする必要はありませんし、する余裕もほとんどないでしょう」。山形大学大学院有機材料システム研究科有機材料システム専攻の東原知哉准教授が言う。
実際、カリキュラムを見ると、相当ハードな内容だ。入学した年の秋には、学生主体で運営される国際会議の場で、自らの研究について英語で発表しなければならないし、2年次以降ではその運営自体をしなければならない。しかも国内企業へのインターンシップと学術雑誌に論文投稿をしたうえで、創造性と主体性を問う試験(QE試験)にパスしなければ3年次には進級できないし、その試験を受ける前に実施される予備審査に合格しなければその時点でこのプログラムからはドロップアウトすることになる。
一方、無事QE試験にパスすれば、他分野の研究室で一定期間、研究に取り組んだり、希望すれば学外で研究活動するなどの体験が待っている。もちろんこれらはすべて専攻した専門分野の学究をこなしながらのことである。
海外インターンシップも必修
さらにこのプログラムで特徴的なのは、3年次以降に長期海外インターンシップが用意されていることだ。海外の企業の研究所や研究機関に短くても1カ月、長い場合は1年間行って、海外企業の研究者などに交じって研究活動に取り組むのである。しかも、このインターンシップは、行き先の選定やインターンシップ申し込みの手続きなどもすべて学生が自分で行うのが原則だ。
「本学は、世界の様々な大学や企業などとのネットワークを構築していますが、その中に限らずどこに行くかは学生の自由です。事務局はサポートしますが、ビザを取得するために先方から許可証をもらう手続きや、インターン受け入れの契約書を交わす作業などは全部英語で学生自身にさせます」(東原氏)
外国人ばかりの中に1人で放り込まれて、一人前の研究者として研究し、所定の成果を上げることが求められるのだから、これは相当ハードだ。だが、そうであるからこそ、このインターンシップから帰ってきた学生は皆、一様に大きく成長するという。実際に2015年、このプログラムの学生を1人、インターンシップで受け入れたフランスの大手化学メーカー、アルケマ社の日本法人で副社長を務める宮保淳氏は、こう証言する。「彼の場合、3カ月間に驚くほど成長しました。インターンシップが終了する少し前に1度会いに行ったのですが、自分から積極的に動いていましたし、研究所の内外に人的なネットワークもつくっていました。学生のときに企業の現場を体験することは、とても意義のあることで、当社は今後も山形大学の取り組みに協力していく方針です」
山形大学のこのプログラムは企業と連携しているのも特長の一つで、複数の企業の現役ビジネスパーソンが産学連携教授となっている。宮保氏もそうした連携教授の一人だ。
「フレックス大学院に入るための選抜試験では連携教授の方々を必ず面接に加えています。企業人の目線でグローバルに活躍できる資質を持った人材かどうかを、非常に鋭く判断していただいています。さらに、今年度からは企業メンターとして学生の相談などにも対応していただいています。皆さん、非常に熱心に取り組まれ、学生教育の大きな力になっていただいています」(東原氏)
前出の宮保氏は、海外出張したときに、ドイツでインターンシップ中の3人の学生に、休日を利用してわざわざ会いに行ったという。「グローバルに活躍する人材を育てるには、企業の力も必要です。私が学生のときには、こういうプログラムはありませんでした。もしあったらきっと私も入っていたでしょう。こういう取り組みに企業が協力するのは当たり前のことですよ」(宮保氏)
こうしたカリキュラムをすべてクリアし、最後に学位論文審査などをパスしてようやくフレックス大学院を修了したことが付記された博士号を取得できるのである。
どこへ行っても通用する人材になる
宮保 淳
「教員の側も、このプログラムの学生は今までの学生とは違うという手ごたえを感じていますし、このプログラムを受けている学生のほうも、高い満足度を示しています。産業界からも大きな期待をしていただいておりますので、未来を切り開いていく気概を持つグローバルリーダーの育成に、これからも全力をあげて取り組んでいきます」。東原氏が力強くそう宣言すれば、宮保氏は、「このプログラムを修了した学生ならどこへ行っても通用するし、リーダーになれるでしょう。引く手あまたの人材になることは間違いないですよ」と、太鼓判を押す。
次代のグローバルリーダーが山形から世界へ、巣立っていく日は近い。