患者さんの人生をかえる新薬開発に挑み続ける
困難さ増す新薬開発
新薬の開発は新規化合物の探索に始まり、10年〜15年の歳月と金額にしておよそ1000億円から1500億円の投資を必要とします。人への投与(フェーズ1臨床試験)を開始した化合物が承認に至る確率はわずか10%以下、さらに、最初に探索した新規化合物候補が新薬となる割合は約3万分の1とされており、この確率をどう上げていくかが大きな課題です。企業の目利き能力と財務的な強さも要求されます。魅力的なパイプラインを構築し、しっかり投資していくことが大切です。
研究開発への高い投資
2015年のアストラゼネカの年間研究開発費は約6600億円(約60億ドル)で、総売上高の24%を占めます。新薬開発型の製薬企業は研究開発への投資が盛んですが、当社は特にその比率が高く、バイオベンチャーのレベルに達しています。2015年には本社をロンドンからケンブリッジ大学の敷地内に移しました。「すべてはサイエンスから」の覚悟の現れです。2015年には世界中で110以上の臨床試験を開始しました。現在日本で実施中の臨床試験のおよそ4分の3はグローバル治験です。日本ローカルの治験と比べ、より効率的に日本の患者さんへ新薬を提供できるという特徴があります。
日本が世界をリード
がんの原因となる上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)に遺伝子変異をもつ肺がん患者さんの割合は、欧米では10〜15%程ですが、日本では30〜40%に達します。こういうアジアに多い変異のがんの薬では日本が開発をリードしています。2016年3月に国内承認を取得した当社の肺がん分子標的薬は、このEGFR遺伝子変異を持つ患者さんの中でも、既存薬に耐性ができてその後の有効な治療手段がなくなってしまった緊急の治療ニーズが特に高い方を対象としており、治験データの20%以上は日本患者さんの協力によって得られました。
迅速承認と無償提供
この分子標的薬は、治験開始から承認取得まで36カ月、薬事申請から承認取得までは7カ月と、記録的な速さで開発されました。これは、治験施設や医療従事者、厚生労働省、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の支援と協業によって実現しました。承認取得から薬価取得までの間は、治療選択肢が限られている肺がん患者さんに倫理的観点から同剤を無償提供しました。先生方からも「画期的な試み」と支持いただき、全国37施設で290人の患者さんに使ってもらいました。