地方再生、被災地復興には共通の課題がある 被災地の今から考える<前編>

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夕暮れ時の海は紫のグラデーションと白い波、夕陽の赤が映えて美しい

岩手県陸前高田市の高台にあるオートキャンプ場「モビリア」。敷地内の展望広場に案内してくれたのは、ここを拠点に、仮設住宅の見守り支援などを行う「特定非営利法人陸前たかだ八起プロジェクト」理事の蒲生哲さん。キャンプ場の敷地内には一戸建ての仮設住宅が立ち並ぶ。

5年半前の大津波後、避難所に

震災の日、キャンプ場の支配人を務めていた蒲生さんは、この展望広場から津波を目撃した。蒲生さんから聞いた「その時の様子」は、今、目の前に広がる穏やかな海と別物のようだ。向かって右手に広がる沿岸部に、震災前より高く土を盛った更地が広がっていることが、すべてをさらった津波が「あったこと」を伝えている。

5年半前の大津波で、キャンプ場のある広田半島は孤立し、多くの住民が取り残された。助けを求めて集まった約300人に、キャンプ場の施設を提供して避難所を立ち上げ、運営したのが蒲生さんだった。暗がりを怖がる子どものために明かりを灯し、高齢者や体が弱い人のため、たき火をした。屋根に上って電波を探し、地元の放送局を通じて避難した人の無事を知らせたり、必要な物資について情報を発信したりした。

上空をヘリコプターが通るたび、上から見えるよう、避難所の皆で芝生の敷地に石灰でSOSの文字と着陸可能地点を示す印を書いた。これを手掛かりに、東京消防庁や海上保安庁、米軍第7艦隊のヘリコプターなど十数台が着陸して、孤立した人々を支援することができた。2011年7月にキャンプ場から避難所が閉鎖され、仮設住宅ができた今も、蒲生さんはここに腰を据えて支援を続けている。

当時の話になると「俺、3時間くらい話しちゃうから。とりあえず、お茶にすっぺ」と、仮設住宅の集会場に案内してくれた。出されたお菓子を食べ始めた頃、一緒に話を聞いていた、別のNPOの女性リーダーが尋ねた。

「蒲生さん、議員になって、どう? 何か変わった?」

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