知られざる「石油ストーブ」メーカーの実態 「54年ぶりの雪」でドメスティック企業が攻勢

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気象庁が11月25日に発表した3か月予報。各地の気温は、北日本で「平年並み」または「高い」がともに40%、「低い」が20%、東日本は平年並みが40%で、低いと高いがともに30%、西日本は低いが40%で、平年並みと高いがともに30%である。厳冬の可能性は取り立てて高いわけではないが、それでも暖冬だった昨年よりは寒くなる可能性が高そうだ。

そんな中での11月の降雪である。「現在はまだら模様で、暖かくなったり寒くなったりを繰り返している。ただ、11月時点で一旦寒さが来ると(暖房機器を)備えてもらえる」とコロナの大桃満・経理部長は期待をかける。

超ドメスティックな石油暖房業界

コロナは通常、上期(4~9月期)は赤字で、第3四半期で利益を稼ぐ構造だ。だが今期は夏商品であるエアコンが好調で上期も黒字を記録した。このため10月には通期の業績予想を上方修正している。寒さが強くなればさらに増益幅が拡大する可能性がある。

コロナ(左)とダイニチ工業の石油ファンヒーター

厳冬に胸をときめかすのは、家庭用の石油ファンヒーターに強いダイニチ工業も同様だ。石油暖房機器でフルラインナップのコロナに対し、ダイニチは家庭用石油ファンヒーターが主力で、約55%の国内シェアを握る。

石油ファンヒーターは北関東などが主力市場だ。より寒さの厳しい北海道や東北などでは、寒冷地専用の暖房機器が普及している。ただ北関東は寒さ次第で電気暖房(電気ストーブやエアコン)でも冬を越せる。このため冬場の気温が需要を大きく左右する。

ダイニチ工業も今期は増益を見込む。第3四半期で年間の営業利益の100%以上を稼ぐため業績予想こそ据え置いたままだが、11月の降雪が「福音」であることは間違いない。2月末や3月に寒波が襲っても量販店が追加発注に及び腰だからだ。その時期には価格も下がり始めており、収益への貢献は薄い。「早く寒くなってくれるほうが利益が出やすいことは確か」(ダイニチ工業広報)だという。

石油暖房機器市場は「超」がつくドメスティック産業だ。コロナ、ダイニチ工業とも本社を構える新潟県内の工場で全量を生産している。海外メーカーとの競争もほとんどない。暖かい東南アジアには市場自体がない。寒い地域の多い中国にも競合となるメーカーはいない。日本と同じ品質の灯油が一般的に手に入らないのが理由の一つだろう。デジタル家電に比べると、エアコンでも国内市場の国内メーカー比率が高いが、石油暖房機器はそれに輪をかけて内向きな市場である。

競争は少ないが、市場は成熟しきっており経営には悩みが尽きない。冬場の気温にビジネスが左右されるうえに、工場の稼働は季節ごとに大きく変わる。このためコロナは夏季商品のエアコン、通年商品の石油給湯器具やヒートポンプ給湯機「エコキュート」などにも力を入れている。ダイニチ工業は加湿器で一定の地位を築いたが、やはり冬が需要期であり、通年での収益の平準化には課題が残る。

ただ、経営的に寒さが続いた石油暖房機器メーカーにとって、この冬はほっと一息つける暖かいものになるかもしれない。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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