泣くな小泉進次郞!農協への「要請」で終わる 農業村の抵抗に挑む青年代議士の闘い<後編>

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小泉進次郎議員は今回の農業改革の挫折を次に活かせるか(7月18日の国際女性ビジネス会議で。写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

政治家、小泉進次郎(35)が農業改革に挑んだ背景については、前編「泣くな小泉進次郎!農業改革の分厚い岩盤」で書いた。ここではなぜ改革が挫折したのか、具体的な理由について触れてみたい。

農協は農業資材の販売でも圧倒的なシェアを持っている。肥料では8割、農薬、農機具で6割である。これだけの市場支配がされていれば、独占禁止法で独占状態が問題にされるはずだが、農協は協同組合であるという理由で、一部の規定を除き、独禁法の適用を除外されている。農協がカルテルを行うことも自由だ。このため、肥料や農薬、農機具、飼料など主要な農業資材は、同じ原料を使いながら、米国の倍もする。

農家が高い農業資材価格を払えば、農産物ひいては食料品の生産コストや価格も上昇する。農協は、高い農業資材価格と農産物価格で、2度高い販売手数料を稼げる。国際価格よりも高い国内の農産物価格を維持するためには関税が必要となる。”農業村”の政策は、生産者の利益も消費者の利益も、ひいては国民全体の利益も、損なってきた。

多くの政治家は、貧しい人が高い食料品を買うことになる逆進性が問題だとして、消費税増税に反対した。他方で、関税で食料品価格を吊り上げる逆進性の塊のような農政を維持することも、国益と言うのだ。

欧米は所得保障で農家を保護する

米国や欧州連合(EU)は、財政からの直接支払い(所得補償)を農家に交付することで、消費者には低い価格で農産物を供給しながら、農業を保護する政策に切り替えた。価格を下げれば需要が増えるので、減反をしなくて済む。さらに、兼業農家が退出して農地を貸せば、主業農家に農地が集まり、規模が拡大してコストが下がるので、主業農家の収益は上昇し、農地の出し手である兼業農家に支払う地代も上昇する。コメの価格競争力は増加、輸出も拡大して、農業は発展する。

価格が下がっても、直接支払いを受ければ、農家は困らない。農業所得がわずかしかない兼業農家に所得補償をする必要はない。だが、価格が下がると、販売手数料収入が減少する農協は困る。価格低下でコストの高い兼業農家がいなくなることは、脱農化で発展してきた農協の土台も揺るがす。だから農協は、「TPP(環太平洋経済連携協定)反対」の一大運動を展開したのだ。問題は、TPPと農業ではなく、“TPPと農協”なのである。

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