プレハブで9階建て、住宅メーカーの「空中戦」 相続税対策で中高層階住宅の需要が拡大

拡大
縮小

2015年1月の相続税改正の影響も大きい。相続増税対策として、賃貸併用住宅を検討する顧客が増えているからだ。実際、パナホームでは、個人事業主で1億~3億円程度の物件を欲しいと言う人が増えているという。

メインターゲットとなるのは多層階市場が6割を占める東京圏。そしてこれら都市部ではある一定の要件を満たせば、都市計画法に基づいて容積率400%までであれば7階建て、容積率500%になれば9階建てまでが建築可能となる。

「これまでは9階まで建てることができるお客さんに、7階で我慢してもらってきた。これからは9階を建てることができる土地はもちろん、余裕を持った提案が可能になる」(パナホーム広報)。

4階以上10階未満は「空白地帯」

4階以上10階未満は「ゼネコンには小さすぎ、地場の工務店には大きすぎる」。このため、これまではメインプレイヤーが存在しない、空白の市場でもあった。とくにゼネコンは、バブル期以来の超活況状態。小ぶりな家屋に手を出している場合ではない。また大規模なRC(鉄筋コンクリート)を得意とするゼネコンには、もともと採算の取りにくい物件でもあった。

旭化成ホームズは2017年3月、東京・錦糸町にモデルルームを開設する。

パナホームと旭化成ホームズに共通するのは、中高層階に対応する新躯体を開発し、施工法も向上させたことだ。さらに多くの部材を工場で生産し、現場ではほぼ組み立てるだけのため、大幅な工期短縮を可能にしている。たとえば、在来工法の鉄骨造やRC造の7階建てであれば着工から竣工までに1年ないしは1年半はかかる。ところが、プレハブ住宅の場合、ほぼ半年で竣工までこぎ着けるという。

建設現場では職人の高齢化や熟練技能者の不足から、労務単価が高止まりの状況にある。しかし、同工法であれば熟練技能者に頼らずとも建てることができる。つまり、在来工法に対して価格面でも優位性を発揮することとなる。

ただ、新設住宅着工戸数にプレハブ住宅が占める割合はほんの10~15%。3階以上の多層階となると、さらにパーセンテージは低下する。つまり、パイ自体もそれほど大きくないとも考えられる。大和ハウス工業と積水ハウスの大手2社が中高層階住宅への参入に慎重なのは、こうした理由もあるのだろう。

それでも市場縮小が続く中、住宅メーカーにとって新規需要が見込める分野はそれほど多くない。ゼネコンなど他分野からのシェア争奪も想定できる。はたして中高層階住宅は利用者のニーズをどこまで取り込めるか。
 

筑紫 祐二 東洋経済 記者

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ちくし ゆうじ / Yuji Chikushi

住宅建設、セメント、ノンバンクなどを担当。「そのハラル大丈夫?」(週刊東洋経済eビジネス新書No.92)を執筆。

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