配偶者控除「103万円の壁」が崩れる巨大衝撃 「働けるが働かない女性」を減税で動かせるか

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縮小

配偶者の収入が、A:90万円から95万円に増えるケースと、B:100万円から105万円に増えるケースを想定する。現状ではBのように103万円の壁を超えると、配偶者控除の縮小による税負担増、配偶者自身への所得税・住民税への課税開始、企業からの配偶者手当(月2万円と仮定)の支給停止で、手取り額は約20万円減ってしまうのだ。まさに”働き損”である。働けるのに働かない選択をすることは、国としても大きな無駄であり、今回の議論でも一番の問題とされている。

自民党税制調査会長の宮澤洋一氏。税制改正のキーマンである(写真は2015年12月。撮影:今井康一)

本稿の執筆時点では、配偶者控除の収入の条件を、現行の「103万円」から「150万円」まで引き上げる案が有力だ。その代わり、高所得者まで適用されるのを避けるため、世帯主の年収制限という条件を付けるという。これによって実際に改正された際、世帯の手取り額がどう変化するか、パート主婦と専業主婦のケースを比較してみよう。

働く女性は減税、高所得世帯は増税

まず妻がパート主婦のケース。これは夫の年収が500万円なら、妻のパート収入が103万円を超えると、影響が出てくる。パート収入が110万円に増えると1.4万円、収入130万円だと5.4万円、収入140万円だと最大7万円分、手取り額も増加するというメリットだ。

次に配偶者が専業主婦のケース。これは夫の年収が制限に引っかかるかどうかがカギを握ってくる。年収制限を超えなければ今と変わらないが、超えると配偶者控除そのものも適用されなくなるため、手取り額が減少するというデメリットだ。年収制限の金額は流動的だが、たとえば夫の年収が1500万円とすれば、年間12万円程度の負担増になる。

いわば今回の制度改正は、高所得の世帯主を持つ収入ゼロの専業主婦や、収入を103万円以下に抑えるパート主婦に対して増税する反面、収入が103万円以上でより働きたいとする女性を減税するという構図だ。

では、配偶者控除の適用を拡大すれば、本当に女性の就労拡大に結びつくのだろうか。忘れてならないのは、配偶者控除だけでなく、企業が支給する配偶者手当や、健康保険や厚生年金など社会保険料の控除が、今後どう変化するかである。

ひとつめの配偶者手当については、従来通りに支給要件を配偶者控除と同じように拡大すれば、企業の負担は増える可能性がある。そもそも配偶者手当については、同一賃金・同一労働の原則から外れるものであり、正規―非正規間の格差の要因にもなりやすい。経団連が所属企業に見直しを要請する方針であること、公務員の配偶者手当についても見直しが議題にのぼっていることなど、状況は変わっている。企業は配偶者手当を縮小・廃止し、浮いた原資を子ども手当などに充てる方策が想定される。

もうひとつの社会保険だが、現状では、パート収入が130万円を超えると(中小企業が対象)、配偶者は約18万円の社会保険料を負担しなければならない。社会保険における「130万円の壁」だ。これも税と同様に、妻が収入を130万円以下に抑えようとする原因になっていた。今年10月からは大企業に限って適用が拡大され、社会保険料を納めなくてもよい扶養条件が130万円以下から106万円以下へと引き下げられている。これから配偶者控除の見直しを受け、社会保険制度も改正される可能性があるだろう。

「103万円の壁」という配偶者控除見直しによる就労増は、一定程度の効果はあるものの、限定される。ただ、働かない方が得をする制度が続くのは望ましくなく、税制や社会保険制度の改革は重要だ。同時に保育所増設や職業訓練の実施のような、女性が働ける環境整備も必要である。結局、誰もが無理なく参加できるような形にすることが、安定・継続的に、働く女性の就労をより後押しすることにつながっていくに違いない。 

柵山 順子 第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト

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さくやま じゅんこ / Junko Sakuyama

2001年4月第一生命保険入社。2004年4月第一生命経済研究所出向、2013年4月より現職。担当は日本経済の分析・予測。

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