国民総所得が増えれば、家計所得は増える? 景気・経済観測(日本)

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名目の場合と同様に、海外からの所得はGNIの押し上げ要因だが、原油をはじめとした資源価格の上昇などから輸出物価よりも輸入物価の伸びが高くなり、趨勢的に交易利得の減少が続いているためである。交易利得はこの10年間で26.4兆円も減少している。ここにきて資源価格の上昇は一服しているが、それに代わって円安が交易条件の悪化をもたらし始めている。

骨太の方針では、今後10年間で実質GDP成長率2%程度の成長を目指す下で、実質国民総所得(GNI)は年2%を上回る伸びとなることが期待されるとしている。実質GNI成長率が実質GDP成長率を上回るためには、海外からの所得を増やすことに加え、省エネ・省資源、海外の資源権益確保、エネルギー調達先の多角化などによる輸入品に対する価格交渉力の強化などを通じて、交易条件の悪化による海外への所得流出に歯止めをかけることが重要となる。

経常収支の黒字が継続することを前提とすれば、名目GNIが名目GDPの伸びを上回ることは比較的容易だが、実質GNIが実質GDPの伸びを上回ることはより困難な課題といえるだろう。
 

斎藤 太郎 ニッセイ基礎研究所 経済調査部長

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さいとう たろう / Taro Saito

1992年京都大学教育学部卒、日本生命保険相互会社入社、96年からニッセイ基礎研究所、2019年より現職、専門は日本経済予測。日本経済研究センターが実施している「ESPフォーキャスト調査」では2020年を含め過去8回、予測的中率の高い優秀フォーキャスターに選ばれている。また、特に労働市場の分析には力を入れており、定評がある。

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