未知のデザインに挑む、ジョブズの右腕 アップルをアップルたらしめる、デザイン哲学

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アップルが今のアップルであるのは、ジョナサン・アイブ(写真左から2人目)のデザイン哲学のおかげといっても過言でない (写真:Getty Images)

i Phone、iPadなど、今や人々の生活に欠かせないものとなったアップルの製品。その人気製品の数々をデザインしてきたのがジョナサン・アイブ。彼は数カ月前、イギリスBBCの子供向けモノ作り番組にゲスト出演した際に、こんな質問を受けた。

「子供たちに出した課題は、バックパックとランチボックスと鉛筆入れが一緒になったかばんを考えてみようというものです。さて、あなたならどう取り組みますか?」

アイブの回答はこうだ。

「まず、ボックスいう言葉を使わないことです。ボックスと言ったとたんに、四角とか立方体とか箱型のアイデアばかり出てきて、想像力が狭まってしまいますからね。僕たちはいつも、どんな言葉を使うのかにとても気をつけているのです。言葉は、これから歩むべき道を定めてしまいますから」

この答えには、心の深くで人を納得させるものがある。ここから感じられるのは、従来の考え方やアプローチに縛られることなく、どうやって想像力を羽ばたかせ、今までに存在しなかったものを生み出そうかとする人の姿だ。しかも、デザインというかたちの作業に対して、言葉というかたちのないものがどれほど関係しているのかを知り尽くしている。これは、この人が無数の経験と無数の思考を重ねてきたという紛れもない証拠だろう。

ジョナサン・アイブは、スティーブ・ジョブズの右腕として、ここ十数年にわたって画期的なアップル製品を生み出してきた。iPod、iPhone、iPadがこれほどの人気を得たのは、アップルの描く新しいデジタル的生活像が、従来の製品にない良質なモノ作りの哲学と精密な設計に支えられたからである。

製品の機能性とモノが完全にひとつになり、われわれユーザーは混乱したり迷ったりすることなく、未来的な生活に歩み出すことができたのだ。もしこれが、機能があふれて使い勝手が悪く、いい加減なデザインしか施されていない製品だったならば、われわれはこれほどの充足感をもってデジタル社会の未来を考えられなかっただろう。

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