【石倉洋子氏・講演】感動する力・感動させる力(その4)

東洋経済主催セミナー「Customer Satisfaction Forum 2008」より
講師:石倉洋子
2008年4月21日 大手町サンケイプラザ(東京)

その3より続き)

●全体のバリュー・チェーンを自ら開拓

 それではこうした環境の中で劇団四季が何をやったか。四季の戦略を見てみると、とても学ぶ点が多いです。当たり外れが大きい業界ですから、自分たちがやりたいものだけやっていると外れる可能性があり、瞬く間に赤字になってしまいます。ですから当たる確率が非常に高い作品を海外から……例えばディズニーの制作した作品をもってきます。するとかなりのお客様が入ることが事前に予想できる。こうした基盤を作り、その上に自分たちのオリジナル作品を加えていくというやり方をしています。
 また、業界のインフラが整備されていない中、自分たちで俳優を育成し、オーディションをしています。劇団全体として高い技術水準を常に守ろうとしている。それはこの業界はスキルで成り立っているという認識がはっきりしているからだと思います。少数の俳優ではなく、才能がある人を多数育て開発し、皆がかなりの技術水準を持つことを義務付けています。

 さらに、ヒットする作品を外国から持ってくる場合、先行投資が非常に大きいですが、ロングランをすればするほど儲かります。そしてそのためには、当たったらいつまででも公演が続けられる専用劇場が必要。劇場を月極めで借りるという日本の従来のやり方ではやっていけないわけです。日本では業界のインフラが整っていない部分は自前でするというように、柔軟に対応してきました。その結果、収益性を維持することができた。自分たちで、独自性のあるバリュー・チェーンを作ったということです。俳優を広く外から開拓し、自前で訓練・開発をし、オーディションによって競争原理を働かせ、常に高い技術水準を保つ。専用劇場を持ってロングランができる体制にして、収益性を守ったわけです。

 私は、事業戦略を考える場合、いくつかの要素に分けて考えます。まず長期的な目標「Where」……どこへ行きたいのか。それから範囲「What」……何をやるのか、やらないのか。これは製品であれ、サービスであれ、どの分野をやるのかと、お客様のターゲットを誰にするのか、地域はどこでやるのかということです。それからバリュー・チェーンの活動のどの部分を自分たちがやるのかということを考えます。そして「How」……どうやって戦うか。競争優位性です。この3つは比較的簡単に考えることができますが、それに加えて重要なのがロジックです。ロジックとは、この戦略で本当に目標が達成できるのか? を考えることです。

 四季の場合は、戦略のロジックがうまくできています。めどが立つ公演の演目を選んで、専用劇場で上演する。専用劇場を持つのには、大きな投資が必要なのですが、公演期間が長ければ最終的には儲かる。逆に専用劇場が無いと、ロングランができない。そして収益性も維持できないわけです。また、劇団四季は、このビジネスの要となるセリフの発声法などに特殊な技術を持っていて、それが実践できる俳優を常に自分たちのところで養成しています。こうした俳優によってレベルの高い公演を毎日続けられています。

 さらに、四季の会という組織によってお客様を囲い込み、ある程度の顧客基盤がいつも期待できます。また専用劇場でも公演でも、JRをはじめ多くの企業と連携しています。外部の企業や組織と提携することによって、チケットも売ってもらうし、劇場に対する先行投資も一緒に行う。公演には協賛として参加する。こうして、顧客の囲い込み、企業との連携により、ある程度の収入を確保している。こうして当たり外れの多い業界でも収益性を守っているわけです。

 組織体制もこうした戦略に合わせてうまくできています。劇団四季のカルチャーには、自分たちが演劇業界を形作っていくという非常に強い使命感が見られます。語り継がれるストーリーは、「徹底」する「常に努力」するというような話です。俳優やスタッフは平等ですし、組織の構造は極めてフラットです。組織間のリンクも強い。例えば公演ごとに俳優も演じるだけでなく、いろいろな役割を持ちます。公演の委員長は、その公演に関して全責任を持つ人です。また、ダンス担当、ロジスティクス担当、健康担当の人など、俳優がそれぞれいろいろな役割の責任を持ち、各分野について責任者、意思決定をする人が明確になっています。そうすることによって、公演の成功に対する個人の意識を高めていると思います。

 そして、顧客の反応……お客様が来てくださるかどうかが、資源配分の基準になっています。ウェブサイトでチケットを売っていますので、この公演は売れているのか売れていないのかというのが、劇団員にももちろん分かるし、外の人にも一目瞭然です。情報はすべて公開されており、常に組織内でも共有されています。公演の切符がきちんと売れれば、自分たちの報酬にもはねかえるという方式です。報酬が常に劇団全体の収益とリンクされているわけです。また、俳優は1年契約です。ランクと出演回数によって業績が評価され、報酬が決まります。毎年契約するわけですが、あまり進歩が無いと、辞めることになります。
その5に続く、全6回)

石倉洋子(いしくら・ようこ)
一橋大学大学院・国際企業戦略研究科教授。
1985~1992年マッキンゼー社にて企業戦略のコンサルティングに従事。青山学院大学・国際政治経済学部教授を経て現職。
著書に『世界級キャリアのつくり方』(東洋経済新報社)『戦略経営論』(同・訳)など。

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