JFE、3000億円ハイブリッド債の「功罪」 やはり買収防衛の一環?資本コストの秩序混乱に懸念も

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リスクに適さないコストが市場を乱す

買収防衛策導入に対する市場への影響もさることながら、「銀行がリスクに見合わないリターンを受け入れてしまうことで、資本コストの秩序を乱すおそれがある」(後藤文人UBS証券クレジット調査部長)との指摘は見逃せない。

「当初5年4カ月のスプレッドは0・65%だが、期間5年のCDS(クレジットデフォルトスワップ)のスプレッドが0・78%(3月3日終値)であることを考慮すると、過度にタイトな水準といえる」(後藤氏)という。

ハイブリッド債のリスクに見合わない、低いリターンでも日本の銀行は引き受けに応じてしまう。証書貸し付けのスプレッドに比べればマシだから、という理由でこの条件で引き受けられては、市場の秩序が乱される、というわけだ。

当事者である引き受け3行の見解は、「他の投資商品と比較しても十分経済合理性があると判断した」(みずほコーポレート銀行)、「当社(JFE)の企業価値向上に資する調達であることに加え、当社の業績予想を十分に検証した結果、妥当な条件と判断した」(三井住友銀行)、「個別案件にはコメントしない」(三菱東京UFJ銀行)。

いずれからも、今回の発行で市場の秩序が乱れるという指摘への見解は聞かれない。

今回のCBは、引き受け3行にとっては60年債を買わされるのに等しい。発行から5年4カ月の間に株価が8530円を上回れば、引き受け3行は株式転換によるメリットを享受できる契約内容になってはいるが、最後の4カ月間は現金決済条項を発動されるリスクがある。

2013年7月にCBの償還を迎えた時点、つまりステップアップ時点で、転換請求されずに残った社債について、現金で償還するのか、55年債に振り替えるのかの決定権もJFEが握っている。

銀行が欧米市場で発行しているハイブリッド債は、慣習上ステップアップ時点で償還されてきた。JFEもステップアップ時点で償還されなければ市場の信用を失う、ゆえに引き受け側は60年債を買っているリスクを意識する必要性をほとんど感じていないのだろう。

また、今回のCBを公募ではなく取引銀行3行引き受けの私募にしたことについて、JFEは「事業会社による劣後資本市場は日本では未成熟であり、資金調達規模を考えると公募方式では困難だった」ことを理由に挙げている。一部市場関係者からも「市場が未成熟である以上、リターンの高低を議論できる基準など形成されてはいない」という反論が聞かれる。

ハイブリッド債にふさわしいコストを負担することなく発行できるとなれば、「買収防衛策の一部としてハイブリッド債を使いたい上場企業の潜在需要は大きい」(前出の上場会社法務担当)。

ハイブリッド債組成の手間暇は半端ではないものの、潜在需要が顕在化したとき、日本の市場は、そして日本の企業は世界からどんな評価を受けるのだろうか。

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