モンキー高校と侮蔑される教育困難校の実態 スマホを回収しなければ、授業は完全崩壊
このカオスの世界を、何とか授業ができるまで持って行くために、教師は非常にエネルギーを使う。生徒を名指しで注意しながら、根気強く席に着かせる努力をする。一度席についた生徒が、またふらっと立ち歩くので、教師の頭には、あたかも「もぐらたたきゲーム」を行っているようなイメージが浮かんだりする。
ようやく席に着かせると、次に出席の確認がある。「教育困難校」では、クラスの全生徒が朝から出席する日は、まず無い。出席は単位認定の重要なポイントとなるので、慎重に取らなければならない。一人ひとり点呼し、返事をした生徒の顔を確認する。自分以外の点呼の際にも、懲りずに何度も元気よく返事をする生徒、本来の席に座らず、他人の席に座っている生徒たちをその都度しかりながら、出席確認は少しずつ進められていく。
生徒が集中できる時間はあまりに短く
授業を開始するまでには、重要な1ステップがまだある。それは、生徒が持っているスマホや携帯電話を集めて、授業時間中保管することだ。生徒に電源を切らせて、カバンに入れさせればよいと思われるだろうが、それができるのは「教育困難校」以外の高校だ。
各教室に専用の袋や入れ物を用意し、毎時間教科担当の教師が開始時に集め、終了時まで保管する。毎時間の決まりごとなのに、抵抗する生徒が少なくない。
「今日は、バイトの大事な連絡が来ることになっているから、せんせー、お願いだから勘弁して」とか「母親から大事な連絡がラインで来るから」、「絶対に見ないから、机の中に入れさせて」など哀願する声が上がるが、「規則だから駄目」の一点張りで教師は認めない。もし、一人でも認めたら他の生徒も黙っていないことがわかっているからだ。集めるときには、電源オフを指示するのだが、毎時間、さまざまな着メロが入れ物の中から度々聞こえてくる。
教師がおとなしい性格で、怒声を発することができない場合には、ここまでのプロセスで、生徒はコントロール不可能の状態になる。したがって、「教育困難校」での教師の第一条件は大きな声が出せることだ。自らは進学校育ちの優等生だった教師が、「教育困難校」に赴任し、それまで、丁寧な言葉づかい、態度で他人に接していたのに、しばらく経つと横柄な態度で怒声を発するようになっている姿を見ることがある。それは、「教育困難校」で教師として生き抜くためには仕方のないことなのだが、正直、見ていて切なくもある。
さて、次はようやく授業開始だ。ここに至るまで、手慣れた教師がずっと大声で注意をしながらでも10分から20分はかかる。一般的に、高校の1時限は50分だが、最近は、学校行事などがあると、授業確保のため、授業カットではなく、45分、40分の短縮授業を行う場合が多い。また、まだまだ数は少ないが、一部の「教育困難校」では、30分授業の時間帯を設けているところもある。いずれにせよ、残された授業時間はあまり多くないことになるが、さほど長くない授業でも、生徒が集中できる時間は短い。
「教育困難校」で、生徒を授業にしっかりと参加させたいと考えている教師は、非常に教材研究に熱心だ。生徒の学力の問題で、一番簡単な教科書でも理解できない生徒が多くいる。教科書が使えないのだから、市販の問題集や参考書もそのままでは使えない。
その現実が見えてくると、良心的な教師は生徒の実態に合わせた手作りの教材を用意するようになる。小・中学校で学んだはずだが身についていない基礎知識を学ばせるため、しかも、少しでも飽きずに集中できるように、なおかつ、高校生であるというプライドも傷つけないように気を遣いながら、プリントやスライドづくりにいそしむ。
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