マレーシア総選挙が示す、「強権政治」の終焉 中国にも大波が押し寄せるのか

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この連載コラムでは、中国のみならず、台湾、香港、東南アジアを含む「グレーターチャイナ」(大中華圏)をテーマとする。私は20代から40代前半の現在まで、留学生や特派員として、香港、中国、シンガポール、台湾に長期滞在するチャンスに恵まれた。そうした経験の中で培った土地勘を生かし、「大中華圏」 での見聞を硬軟取り混ぜて皆さんにお伝えしていきたい。
5月5日に投開票されたマレーシアの総選挙。与党連合・国民戦線が過半数を確保した( 写真:AP/アフロ)

「Malaysia Truly Asia~~」というマレーシア政府の観光イメージソングを、CMか何かで聞き覚えがある人もいるのではないだろうか。この歌、イメージソングとしてはそうとう息の長い部類に入る。もう10年以上は使われているはずだ。

なかなかいいフレーズとメロディーであると同時に、「マレーシアこそ本当のアジア」というこの一言がかなり正確にマレーシアの魅力と現実を言い当てているから好きだ。

マレーシアは多民族国家だ。マレー人、華人、インド人の3民族からなり、人口比は65%、25%、6%。土着のマレー人が多数派ではあるが、移民出身で少数派の華人やインド人も無視できるほど小さくはない。政治も言語も教育も文化もすべてにおいて、この3民族は言語や教育である程度、各民族の個性を維持しながら、マレーシアという国家の大きな傘の下で身を寄せ合って暮らしている。

私が老後をすごしたい国

アジアといっても定義が難しいが、私個人の考えでは、アジアは中国、インド、日本を3大勢力とし、次に朝鮮半島、東南アジアの海洋系(マレーとインドネシア)と大陸系(タイやミャンマー)、そしてモンゴルあたりが第2集団で独自色をアピールしている、という構図だ。その中で、普通は国ごとにカラーがあるが、マレーシアについてはこの3大勢力の中国系とインド系、そして、東南アジアの海洋系という3つの集団が前述のように独自性を保って存在しているので、これほどひとつの国の中でアジアの多様性を実感できる国はほかにないと思う。

私は学生時代に旅をしたときからマレーシアびいきになり、シンガポールで特派員をしているときも足しげくマレーシアに通った。最近は、マレーシアが日本人のシルバーライフで第二の人生を歩む場所としてナンバーワンの人気となったらしいが、私も老後はマレーシアと前々から心の中で思っている一人である。その理由は、気候や物価もさることながら、3民族の文化がエンジョイできるマレーシアの多様性にある。

さて、そんなマレーシアでこのほど注目すべき総選挙があった。5日に投開票され、6日未明に判明した結果は、与党連合が苦戦の末に過半数を確保し、政権奪還が期待された野党連合は一歩及ばなかった。ただ、この結果以上に重要なのは、アジアにおける強権型の経済優先体制がまたひとつ、終わりを迎えつつあることが明確になった、という事実であろう。そして、その潮流がいずれ中国をも巻き込むのかについて考えてみたい。

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