――国内の電子書籍市場においては、専用端末のラインナップも出そろった感があります。成毛さんはすでにいくつか所有されているとか。
根が新しモノ好きですから。こういう新しい製品を見て、遠巻きに見ているだけの人は、次世代のビジネスパーソンとしては向かない。市場の変化を「なんだかわからないけど、面白そう」と思う感性が大事です。
ただし、製品自体は、各社ともに一長一短があります。見やすさという点では、液晶ディスプレーよりも電子ペーパーのほうが読みやすいです。電子ペーパーは、米E-ink社の技術を使った製品が使いやすいですね。明るいところでも反射しないし、暗いところでもディスプレーが明るすぎない。僕の妻は、寝室で使っていますよ。軽いので、ベッドで横になってまま読んでも疲れないのがいい、と言っています。
――電子書籍専用端末の機能や使い勝手はどうですか。

結論から言えば、まだまだです。ただし、今後も満点になることはないでしょう。
と言うのは、僕のように、日常的に大量の本を読む人たちは、紙の本を読んでいるのと同様に、電子書籍専用端末を扱いたいわけです。見出しを拾って、気になるページだけを読んだり、パラパラとページを繰って斜め読みをしたりといったことは、電子書籍専用端末ではしづらい。
電子書籍専用端末はあくまでも本を読むためのツールにすぎません。その機能や使い勝手を比較検討するより、むしろ、その存在を意識しなくてもいいものであるべき。紙の本に近ければ近いほどいいんです。
ディスプレーに自分の顔が映ると興ざめです。紙の本に自分の顔なんて映らないでしょう? 額縁(ディスプレーの周囲のフレーム)もなくしてほしいね。
――電子書籍専用端末の普及によって、「本好き」が増えるのではないかと期待する声もあります。

それは期待しすぎです。現実的ではない。
学習や仕事に必要な本を除けば、読書はあくまでも趣味。買う余裕のある人、余裕のない人に分かれます。1年間に1冊も本を買わないという人もいます。そのような人が電子書籍専用端末を購入してまで本を読むようになるとは考えづらい。
これは知的レベルうんぬんの問題ではなくて、他の製品やサービスと同様に、所得と消費との間の統計学的な相関です。
日本人のうち、本をよく買って読むという人は、多めに見積もっても3000万人程度でしょう。電子書籍市場もそれぐらいと考えたほうがいい。ミラーレス一眼カメラやデジタル一眼レフカメラぐらいの市場規模です。パソコンや携帯電話の市場に比べればはるかに小さいのです。
――電子書籍市場の牽引役として、「マンガ」はどのような可能性があるでしょうか。
マンガは確かに一定の市場規模にはなるでしょうが、電子書籍市場全体を引っ張るまでにはならないでしょう。
前述した所得と消費の関係で言えば、「お金を出して購入する本はマンガだけ」という層がいます。1冊あたりの単価が低いということに加えて、通勤通学時に読む人という人も多い。ケータイやスマホの時間つぶしゲームと同じ市場です。「本好き」市場とは異なる。
僕は『面白い本』(岩波新書)や『ノンフィクションはこれを読め』(中央公論新書)などの書評本のほかに実用書も出していますが、書評本と実用書では、読者層がほとんど重なりません。
どの読者にどのコンテンツを売るのか、しっかりマーケティングする必要があるのはこれまで同様です。単に電子書籍だからと言って売れるものではありません。



