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ワークスタイル変革は、経営戦略だ。 夏野剛が語る日本企業が変わるための2つの道とは

  • 制作:東洋経済企画広告制作チーム
今、国内企業のICT活用が拡大していく中で、ワークスタイルの変革が注目されている。すでに米国では多くの企業が多様性あるワークスタイルを導入しているが、日本ではまだスタートしたばかり。ワークスタイルの変革によって、働き方や時間の使い方、個人と組織の関係はどう変わっていくのか。また、マネジメントやイノベーションにどのような影響を与えるのか。慶應義塾大学 政策・メディア研究科特別招聘教授の夏野剛氏に話を聞いた。

―国内企業のICT活用が進むとともにワークスタイルの変革が注目されています。その現状と課題について教えてください。

夏野 剛
慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特別招聘教授

夏野 過去20年、ICTは大きく進化したにもかかわらず、日本のGDPはまったく成長しませんでした。なぜでしょうか。同じ先進国である米国のGDP(1994~2014年)と比較すると、IMFが発表している名目値では20年で日本のGDPはマイナス約5%の減少であるのに対し、米国はなんとプラス約137%も増加しています。これは驚くべきことです。米国のGDP増加は人口が伸びたことも要因として挙げられますが、見逃してはならないのは人口増以外の要因でも大きく成長していることです。その理由こそ、ICTによる生産性向上にあると考えられます。

日米の製造業は世界トップクラスの生産性を保持しています。しかし製造業がGDPに占める割合は意外と小さく、実は日米ともにいちばん大きいのはサービス業なのです。本来、ICTによる生産性向上はサービス業が最も恩恵を受けるはずです。事実、米国は成果を生みましたが、その一方、日本はまったく変化がなかったのです。

―なぜ、日本ではICTの進化と生産性向上がつながらなかったのでしょうか。

夏野 日本が米国にテクノロジーで劣っていたのかといえば、決してそうではありません。むしろ日本のほうが進んでいるテクノロジーもありました。たとえば、モバイルです。米国ではスマートフォンが登場して初めて携帯電話とインターネットがつながりましたが、日本では、その約10年前から、すでにつながっていました。

モバイルのカバー率やブロードバンド化についても、日本のほうが先行していたのです。日本の最大の問題は、ICTの進化を社会システムに反映できなかったことです。その最たるものがワークスタイルといえるでしょう。

―なぜ日本はワークスタイルの変革に遅れたのでしょうか。

夏野 実はワークスタイルは、企業の経営手法と表裏一体です。経営者が経営手法を考え、それに応じて社員がどのように働くかが決まる、つまり、経営者が社員のワークスタイルを決めているのです。しかし、これだけICTが進化して効率化しているにもかかわらず、この20年間、人事や会議、稟議といった社内システム、個人と組織の関係性はまったく変わっていない。それが大きな問題となり、ワークスタイルの変革につながらなかったのです。

―その課題に手をつけられなかった理由はどこにあるのでしょうか。

夏野 ICTによるワークスタイルの変革は今、日本の企業に最も求められていることです。しかも、このワークスタイル変革を成し遂げれば、米国の例があるように、生産性は向上し、経済は確実に成長します。では、なぜできないのか。

それは今も日本が20世紀の常識にとらわれているからかもしれません。高度成長期に効率的だったシステムをいまだに変えられない。だから、ワークスタイルも変わらないのです。その結果、生産性も向上しない。20年以上も経済が停滞している今、過去と同じことを続けていても現状を打破することはできません。

―では、今から何をすべきなのでしょうか。

夏野 日本の企業が変わるには今、2つの道しかありません。グローバル化と過去の延長線上にない付加価値をつくることです。それを実践していくためには、組織と個人の関係を見直すことが重要になってきます。

20世紀と21世紀でいちばん変わったことは何かといえば、専門家の定義が変わったことです。20世紀は、どの組織に属しているかで個人の専門性が決まっていました。ところが、今や個人がネット検索で圧倒的な情報を得られるようになった。どこの組織に属していようと関心さえあれば、誰でも専門家になれる時代になったのです。いわば、1人のオタクが100人のエリートに勝てる時代が来てしまった。その意味で、組織と個人の関係をもっと緩やかにし、社内外のあらゆる人材を活用できるようなフレキシブルなワークスタイルに変革すべきなのです。

PROFILE 1965年神奈川県生まれ。88年早稲田大学卒、東京ガス入社。95年ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートンスクール)卒。ベンチャー企業副社長を経て、97年NTTドコモへ入社。「iモード」、「おサイフケータイ」など多くのサービスを立ち上げる。2005年同社執行役員に就任し、08年に退社。現職とともに、複数企業の取締役も兼任

―個人はワークスタイルの変革でどんな影響を受けますか。

夏野 これからは時間ベースではなく、アウトプットベースの労働評価に変わっていくでしょう。ネットでいつでもコミュニケーションができる時代に、企業が一律の雇用・勤務体系である必要はありません。労働時間の短縮が叫ばれている今、アウトプットでの労働評価が実現できれば、介護や子育てのための時間を確保しやすくなるし、在宅勤務も可能になる。さらに無駄な残業もなくなっていくはずです。多様なワークスタイルが生まれていく中で、私たちは自分に合った働き方を選ぶことができるのです。

―個人からも働き方を変えていけるのでしょうか。

夏野 この21世紀に生きているということは、どの会社に属していようが、自分の可能性を拡げられる時代に生きているということです。自分の好きなことがあれば、それを追求できるのです。大事なのは、組織も個人も「一律であること」に固執しないことです。

―ワークスタイルの変革は組織にどんな影響を及ぼしますか。

夏野 大きく変わるのはイノベーションです。イノベーションは、いつも同じようなメンバーで、同じような会議をして生まれるものではありません。そもそもイノベーションの源は摩擦です。異分子が入ってくるから摩擦が起きて、意見が違う人がいるから摩擦が起きる。その摩擦を乗り越えるために、イノベーションが生まれるのです。最近注目されるオープンイノベーションも、他企業や他リソースと連携することで可能になるものだと思います。だからこそ、ICTを活用した多様性のあるワークスタイルに変革することが必要なのです。

―ワークスタイル変革を検討中の経営者の方々にメッセージをお願いします。

夏野 人事や労務の改革は時間がかかります。思いついてもすぐに実現できません。だからこそ、今すぐにでも手をつけるべきなのです。すでにワークスタイルを変革したことで生産性が大きく向上し、売上、利益ともに大幅に増加した企業も出てきています。ワークスタイル変革は大きな成果を生む。今、いちばん必要なことは経営者のやる気なのです。